佐野元春の「境界線」を聞いて

佐野元春の新曲「境界線」を聞いた。3月にリリースされた
「君がいなくちゃ」に続くシングル盤の第二弾。かつての
「ヤングブラッズ」を彷彿させるソウル・テイストに思いっ
きり気持を持っていかれてしまう。それでもこの新曲で歌の
主人公が苛立ちを隠していない点には、昨今の抜き差しなら
ない現実が投影されている。

音楽と政治が無関係であるはずがない。為政者の舵取りによ
って人々は暗闇を彷徨い、明日が永遠に届かない迷宮になっ
てしまうことも歴史は皮肉にも示してきた。ヘイト・スピー
チも沖縄基地も憲法をめぐる論議も、ぼくたちのすぐ足元を
揺さぶっている。昨年秋のツアーで佐野が「憎しみは憎しみ
しか生まないとぼくは思うよ」とヘイトへの嫌悪に言及した
ことを覚えていらっしゃる方々も少なくないだろう。

それでもこの「境界線」で佐野は特定の誰かを糾弾したり、
名指しで批判することを避けている。そうした”具体的な”
メッセージ・ソングがあってもいいと思うが、時事的な問題
に時事で切り込むのはジャーナリストの役割だろう。これは
個人的な見解であるけれども、ぼくは音楽家には音楽でしか
語れないものを作って欲しい。どこにも宛のない暗い夜を灯
火でそっと照らし出して欲しい。音楽はトピカルな話題の説
明ではない。特定の団体を旗揚げするための玩具でもない。

コヨーテ・バンドの躍動する演奏を背中に感じながら、佐野
元春は今なお「夢見ている」彼は以前から一貫してどういう
歌が長持ちするのか、どんな歌が本当に届くのかを知り尽く
している。佐野流ソングライティングの秘密について、かつ
て彼はこう語っている「ある表現者は”見ろ!これが俺の世界
だ!”と言わんばかりに自己主張する。でもぼくはもっとさり気
なく表現したい。きみの領域を侵害してまでぼくは主張しない
よ、ということかもしれません」

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by obinborn | 2015-05-09 01:13 | rock'n roll | Comments(2)  

Commented by caorena at 2015-05-12 23:41
具体的でない=何に賛成で何に反対なのかをはっきりさせないのはズルイ、という見方もあるようですが、いちシンガーソングライターとしての佐野元春の姿勢はずっと変わらず、小尾さんが仰るように、音楽でしか出来ないことを貫いていますね。ただそれが、Facebookのような場での発言となると、万人に「シンガーソングライターとしての佐野元春」という前提を理解してもらうのは難しくなるのだなというのが、今ちょっと騒ぎになっているらしい(笑)ニュースを見て思ったことです。

最期の部分、ソングライティングの秘密、北風と太陽みたいだなぁと思いました。
Commented by obinborn at 2015-05-13 12:27
コメントありがとうございます。「沖縄基地に断行反対!」とか「海を汚すな!」とか解り易いスローガンを言えば良いという問題ではないですよね。自分がそうした言葉にどこまで責任を取れるのかを考えると慎重にならざる
を得ません。そんな意味でも佐野さんが伝えたかったメッセージは賛否のどちら側に立つということではなく、こういう現実から目を逸らしてはいけないよ、と問題を促すことにあったと思います。そんな意味でも彼らしいな、と
感じました。

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