佐野元春の「境界線」を聞いて
「君がいなくちゃ」に続くシングル盤の第二弾。かつての
「ヤングブラッズ」を彷彿させるソウル・テイストに思いっ
きり気持を持っていかれてしまう。それでもこの新曲で歌の
主人公が苛立ちを隠していない点には、昨今の抜き差しなら
ない現実が投影されている。
音楽と政治が無関係であるはずがない。為政者の舵取りによ
って人々は暗闇を彷徨い、明日が永遠に届かない迷宮になっ
てしまうことも歴史は皮肉にも示してきた。ヘイト・スピー
チも沖縄基地も憲法をめぐる論議も、ぼくたちのすぐ足元を
揺さぶっている。昨年秋のツアーで佐野が「憎しみは憎しみ
しか生まないとぼくは思うよ」とヘイトへの嫌悪に言及した
ことを覚えていらっしゃる方々も少なくないだろう。
それでもこの「境界線」で佐野は特定の誰かを糾弾したり、
名指しで批判することを避けている。そうした”具体的な”
メッセージ・ソングがあってもいいと思うが、時事的な問題
に時事で切り込むのはジャーナリストの役割だろう。これは
個人的な見解であるけれども、ぼくは音楽家には音楽でしか
語れないものを作って欲しい。どこにも宛のない暗い夜を灯
火でそっと照らし出して欲しい。音楽はトピカルな話題の説
明ではない。特定の団体を旗揚げするための玩具でもない。
コヨーテ・バンドの躍動する演奏を背中に感じながら、佐野
元春は今なお「夢見ている」彼は以前から一貫してどういう
歌が長持ちするのか、どんな歌が本当に届くのかを知り尽く
している。佐野流ソングライティングの秘密について、かつ
て彼はこう語っている「ある表現者は”見ろ!これが俺の世界
だ!”と言わんばかりに自己主張する。でもぼくはもっとさり気
なく表現したい。きみの領域を侵害してまでぼくは主張しない
よ、ということかもしれません」
by obinborn | 2015-05-09 01:13 | rock'n roll | Comments(2)
最期の部分、ソングライティングの秘密、北風と太陽みたいだなぁと思いました。
を得ません。そんな意味でも佐野さんが伝えたかったメッセージは賛否のどちら側に立つということではなく、こういう現実から目を逸らしてはいけないよ、と問題を促すことにあったと思います。そんな意味でも彼らしいな、と
感じました。