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ティーンエイジ・ファンクラブ

「さようなら、10代の浪費した王国よ」ザ・フーが「ババ・
オリリィ」で過去の自分たちに決別したのは70年始めの頃だ
った。あるいはニール・ヤングが「シュガー・マウンテン」
で「お砂糖の山に囲まれて、きみはいつまでも二十歳のまま
ではいられない」と弾き語ったのも同じ頃だった。それから
20年が経ち、スコットランドからその名もティーンエイジ・
ファンクラブというグループが生まれた。むろん命名した彼
らも、10代の王国が永遠に続くなどとは思っていなかっただ
ろう。しかしあえてそうしたバンド名を付けたことに、確信
犯のような力強さを感じずにはいられない。グラスゴー発の
瑞々しいギター・ロックは、そうして90年に始まった。

少しだけ90年前後の個人史を振り返ってみると、ちょうどそ
の頃はサラリーマン生活が10年めを迎える一方、音楽雑誌か
ら初めて原稿依頼を受けたばかりの頃だった。但し悔しいこ
とに、ティーンエイジ・ファンクラブ(TFC)を当時から知っ
ていたわけではない。しかし、彼らの音楽が過去のロック遺
産をパンク~ニューウェイブのムーブメントのように全面否
定するのではなく、むしろ歴代の英雄たちから学んでいく謙
虚さに満ちていた点に、ぼくはやがて心動かされていった。
また当時の時代背景を述べるならば、ソニック・ユースやニ
ルヴァーナ、ソウル・アサイラム、ダイナソー・JRといった
アメリカのオルタナ~グランジ勢が狼煙を上げていた。そん
な彼らの源流がニール・ヤング&クレイジー・ホースであり、
ニールは”グランジのゴッドファーザー”として若い世代から
圧倒的な支持を集めることになったのだ。クレイジー・ホー
ースのWELDツアーにソニック・ユースが同行したことを覚
えていらっしゃる方も多いはず。TFCはいわばそんな時代の
U.S.勢に対するグラスゴーからの回答であった。

TFCの音楽的特徴をひと言で表現すると、狂おしいまでに
ノイジーなギターと甘酸っぱいメロディ・ラインとの合体
にあると言っていい。一見相反するそんな音楽要素を分ち難
く結びつけたところに彼らの慧眼がある。また初期を象徴す
る名曲「EVEERYTHING FLOWS」で歌われる「これからど
っちの道に行けばいいのか。そんなことぼくには解らないよ」
という率直過ぎる自己申告にも胸を鷲掴みにされた。彼らは
ビートルズからポップ・ソングのソングライティングを学び、
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドから”バンドは下手でも
いいんだぜ”というスピリットを受け取り、初期のザ・バーズ
からジャングリーなギター・サウンドとコーラスを模倣した。
いつの時代でもロックとはそんな歴史の繰り返しや循環運動
のなかにある。

筆者にとって決定的だったのは、TFCがずっと不遇なままの
音楽生活を過ごしていたアレックス・チルトンを、その埃の
なかから探し出してきたことだ。60年代の後半にボックス・
トップスの一員としてキャリアを始めたチルトンだが、次な
るステップとして結成したビッグ・スターが失意のうちに解
散した後は、これといった成果を上げることもなく気まぐれ
なソロ活動に明け暮れる日々を過ごしていた。しかしながら
リプレイスメンツがその名も「アレックス・チルトン」とい
う曲を歌ったように、TFCもまたチルトンへの敬愛を隠すこ
とはなかった。とくにTFCの場合、やはりパワー・ポップの
元祖とも言うべきビッグ・スター時代のチルトンに格別の思
いがあったのではないだろうか。チルトンがTFCをバックに
レコーディングした名演に「You're So Fine」があるけれど、
彼はFineという単語をくずし、F・I・N・E !!とアルファベッ
ト読みをしながら無邪気に歌っている。こうじゃなきゃ!

多くのU.K.ギター・ポップ・バンドが解散していくなか、も
う四半世紀にも及ぶ活動を続けているTFCの存在は頼もしい。
むろんかつてに比べればその歩みはゆったりとしたものにな
っているし、メジャー・カンパニーから離れインディーズへ
と回帰せざるを得ない現実もあるのだが、それもこれも彼ら
が彼ららしさを失わないための選択肢であるならば、ぼくは
それを喜んで受け止めよう。ノーマン・ブレイクもレイモン
ド・マッギンリーも他のメンバーもすっかり歳を重ね、お世
辞にもティーンエイジ・ファンクラブとは言えない年齢にな
ってしまった。しかし、彼らはこれからもずっとそのグルー
プ名に相応しい音楽を作っていくだろう。まるでライ麦畑の
守護者のような心持ちで演奏していくことだろう。

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by obinborn | 2015-06-02 15:28 | rock'n roll | Comments(0)  

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