ランディ・ニューマンの観察

振り返ってみれば、80年代のラジオ番組で佐野さんが
「マリー」を選曲したのが、私とランディ・ニューマ
ンとの出会いだった。その番組を聞いてから数週間後
に私はたまたま中古盤でニューマンの『グッド・オー
ルード・ボーイズ』を見つけたのだ。何でも佐野さん
は10代の頃に「マリー」を聞いて「ぼくもソングライ
ターになりたい」と思ったというから、かなり早熟な
青年だったのだろう。

74年のアルバム『グッド・オールド・ボーイズ』でニ
ューマンが描き出したのはアメリカ南部の名もなき人
たちの物語であり、そこに登場するのは貧しい農民た
ち、中年のカップル、アル中の老人、洪水で家を流さ
た人々…..といった具合。なかには人種差別がとくに
激しかったバーミンガムを”こんな素晴しい町はどこに
もないよ”と主人公に歌わせる過剰なまでの皮肉もある。
いずれにしても歌の作者であるニューマン本人は一歩
引き、舞台裏の監督に徹している。まるで一篇の映画
を観ているような錯覚に陥るアルバムで、ニューマン
の観察眼に富んだソングライティングがじわじわと染
み亘っていく。

とくに中年カップルの様子を捉えた「マリー」は、ア
ルバム・ジャケットに映し出された二人とも重なって
いくようなバラードで、”マリー、最初に出会った頃と
同じようにきみを愛しているよ”という主人公の独白が、
かえって長い歳月の経過や、永遠に戻らない無邪気な
日々を思い起こさせるといったパラドックスを持つ。
ティーンエイジャーの単純な求愛歌とは明らかに異な
る苦渋が、きっと「マリー」を特別な歌にしているの
だと思う。そこには気休めもなければ救済もない。主
人公の呟きが場末のバーのなかで響いているだけだ。

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by obinborn | 2015-08-10 01:02 | one day i walk | Comments(0)  

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