やぎたこの新作『I'm here!』を聞いて

やぎたこの辻井貴子さんが彼らの新しいCDを届けてくださ
った。やぎたこにとって3作めになるそのアルバムは『I'm h
ere!』と控えめに申告されているが、ここ数年は以前にも増
してフォーク音楽の源泉へと溯るようなルーツ指向を深めて
おり、そんな彼らの姿が生に近い形でうまく反映されている。
男女デュオらしいハーモニーとリード・パートの歌い分けは
もとより、器楽面ではバンジョーとダルシマーを積極的に登
用しながら、オールド・タイム色を強めていることに少なか
らず驚かされた。

アルバムに収録された殆どの曲はアパラチア地方に古くから
伝わる労働歌、アイルランドから新大陸に入植した人々によ
る哀歌、あるいはすれ違い続ける男女の報われない求愛歌で
あったりする。やぎたこの二人が今過ごしている現代の日本
とは随分違う暮らしぶりが浮かび上がってくるトラディショ
ナル・ソングの数々だ。それでも辛い毎日を過ごしていくた
めのちょっとしたユーモアや機智、そして感情の襞がこれら
の歌には脈々と流れている。そうした意味では1940年代の
古色蒼然とした歌たちが、剥き出しの欲望と消費を強要して
いく今の日本に響き渡る意味はきっと少なくない。タイプは
異なるものの、あのボブ・ディランとザ・ホウクスの面々が
人里離れた地下室で暖を取りながら、古い歌に光を当ててい
った60年代末の営為と似ている気がしてならない。

温故知新とはよく言ったものだ。やぎたこの歌と演奏が少し
ずつ膨らみを増していくと、その小径にいつの間にか新しい
影絵がすくっと立ち上ってくる。アルバム最後に置かれたA
ngel Bandの確かな足取りはどうだろう。歌の後半部をアウ
トロに見せかけつつ、歌い手たちは再びカウントを取り直し
ながら一歩ずつ踏み出してゆく。やなぎのフィドルがそれを
後押ししてゆく。

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by obinborn | 2015-08-21 12:27 | one day i walk | Comments(0)  

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