ポール・サイモン「キャシーの歌」

最初に買った洋楽LPは『サイモンとガーファンクル・グレイ
テスト・ヒッツ第二集』だった。確かシングル盤に関しても
S&Gの「アメリカ」は、中学生になってから最も早い時期に
購入した一枚だったと記憶する。今の若い人にはピンと来な
いかもしれないが、70年前後のS&Gはかのビートルズを凌ぐ
ほどの人気ぶりで、アクースティック・ギターのブームとと
もにごく自然に学校の部屋やお茶の間へと浸透していたので
ある。筆者もそんな体験者の一人であり、『ヤング・ギター』
や『ライト・ミュージック』に付いていたタブ符を参照にし
ながら、覚えたてのフィンガー・ピッキングやハンマリング・
オン/オフを用いて「早く家に帰りたい」や「59番街橋の歌」
などをコピーしていったっけ。そしていつしか辿り着いたの
が『SIMON BEFORE GARFUNKEL』ポール・サイモンがS
&Gを組む以前に渡英し、ロンドンのフォーク・シーンで単
身修行していた64年にレコーディングされたデモ録音集だ。
後年『SONGBOOK』とタイトルが変更され、ジャケットも
また改められたアルバムだが、アート・ガーファンクルの
ハイ・ハーモニーが重なる以前の、サイモンの骨格だけを
伴った歌とギターが若き日々の鼓動を生々しく伝えている。

そのアルバムのなかで最も心を打たれたのはKATHY'S SONG
(キャシーの歌)だ。恐らく当時のガールフレンドに捧げられ
た歌なのだろう。出だしから「霧雨が思い出のように降り注
ぎ、屋上と壁をそっと叩く」といった歌詞が、ロンドンのソ
ーホー地区でバート・ヤンシュらと腕を競っていた頃へと連
れ戻してくれる。しかしそれ以上に、サイモンが自らのソン
グライティングに関して煩悶している点が印象的。曰く「信
じてもいない歌のためにぼくは時間を費やしてきた。韻を踏
むために作られた涙を誘う歌なんか信じられるかい?」そう、
当時はまだティン・パン・アレイの他愛ないティーンエイジ
・ポップばかりが量産され圧倒的な市場を得ていたのだった。

若者らしい自問自答を飾らずに歌っているのがいい。例えば
「明日に架ける橋」の歌詞にある”きみのためなら、ぼくは身
を投げ出そう”といった大袈裟なフレーズよりは、心を満たし
ていく実感が少なくとも筆者にはある。そうした経験は今に
して思えば、自分が心を寄せられるものと、そうでないもの
との分岐点だったと思う。今ではもうあまり聞くことのない
ポール・サイモンだが、60歳近くになっても達観出来ず、と
きに出口のない永遠の問いに晒されながら、眠れない夜にふ
と思い起こすのは、このKATHY'S SONGだったりする。

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by obinborn | 2015-10-25 19:56 | one day i walk | Comments(0)  

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