三島由紀夫『午後の曳航』

遅ればせながらこの歳になって初めて『午後の曳航』を
読みました。三島由紀夫が1963年に発表したこの小説は
息子が義理の父親を殺めてしまうという衝撃的な結末で
当時センセーショナルな話題を集めました。戦後間もな
い横浜の港町を舞台にした物語は二部に分かれ、第一部
ではブティックを営む未亡人と船乗りの男との道ならぬ
恋が描かれ、第二部では彼らの幸福な再婚に反発した13
歳の息子による煩悶が語られていきます。息子が許せな
かった想いをつぶさに観察していくと、母親の再婚とい
う状況に適応出来なかったというよりは、むしろ船乗り
という誇らしい職業を捨て、陸に上がって一般的で規範
的な生活をまっとうしようとした義父への失望がひしひ
しと伝わってきます。実際息子の登は義父と出会ったば
かりの頃は海の男に憧れ、船の見学を嬉々として申し出
るほどでしたが、やがて彼が船を諦め母と一緒になり凡
庸な生活へと身を委ね始める頃から、彼らの幸せと反比
例するが如く、息子は”父”への敵対心を胸にたぎらせ、
遂に復讐してしまいます。

かつての『青の時代』同様、『午後の曳航』でも三島ら
しい切羽詰まった美学と修辞的で過剰な文体(スタイル)
とが物語の両軸となっています。ある意味、義父を殺め
ることで、かつて勇敢な船乗りだった男の人生を祝福す
るかのようなアイロニーが胸に突き刺さります。こうし
た展開を、その後の三島が辿った自決事件になぞらえて
しまうのは少しばかり安易でしょうか? 凡庸な毎日の
なかに生き甲斐を見出しそうとしている私には、あまり
にも衝撃的で生めかしい作品でした。

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by obinborn | 2015-11-17 18:17 | 文学 | Comments(0)  

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