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追悼:グレン・フライ

「最初にアラバマを訪れたのは71年。ぼくはエディ・ヒントン
からギターの手ほどきを受けた。それはボビー・ウーマック風
の中国的リックと呼ばれるフレーズだった。尊厳溢れる体験だ
ったよ。だからこの曲ではぼく自身がそのギターを弾いてみた」
グレン・フライのI Found Somebodyにはそんなエピソードが
添えられている。彼が現在来日中のジャック・テンプチンとと
もに書き上げた曲だ。そのフライが18日合併症のためニューヨ
ークの病院で亡くなった。67歳だった。

デトロイトに生まれた彼はいつしかロスアンジェルスを目指し、
ジョン・デヴィッド・サウザーとともにロングブランチ・ペニ
ーホイッスルを69年に結成。これがプロとしての第一歩だった。
日々トゥルヴァドール・クラブなどで切磋琢磨していたフライ
はやがてドン・ヘンリーと出会い、彼らはリンダ・ロンシュタ
ドのバック・バンドを務めながら何とか食い繋いだ。やがて互
いを刺激し合う仲となった二人はソングライティングのコンビ
を組む。これがイーグルズの始まりだった。以降彼らが70年
代の西海岸ロックを支える大きな潮流となったことは言うまで
もないだろう。楽天的なヒッピーを気取ったTake It Easyや、
恋人と一夜を過ごすPeaceful Easy Feelingといった初期の代表
曲に、青年期ならではの不安や焦燥が同居していたことを覚え
ておきたい。そんな部分に人々は共感を寄せていった。かつて
ヘンリーは「CSN&Yが俺たち唯一の希望だった」と述懐してい
たが、CSN&Yが解散してからのカリフォルニアのロック・シー
ンを牽引したのはイーグルズに他ならなかった。73年のセカン
ド『ならず者』を西部劇仕立てのコンセプト・アルバムにした
ことも話題になった。作品では無法者ドゥーリン・ダルトンの
生涯が描かれていたが、それがロック・スターという危い職業
に就いている彼らと二重写しになっていたことに抜き差しなら
ない意味があった。また76年作『ホテル・カリフォルニア』の
表題曲では「69年以来そのスピリットは切れたままです」と魂
の不在を嘆き、「駆け足の人生」では現代人の享楽的な生活を
戒めた。

そんなピュアな精神を持っていた彼らだけに、90年代に再結成
してからはまるで産業ロックの偶像のように変容してしまった
のは大きな皮肉だった。いや、そこまで言わなくとも、バンド
の音楽性に幅を持たせたドン・フェルダーを解雇するなど、近
年のフライ/ヘンリーの言動に傷付いた古くからのファンは少な
くない。それはビートルズの昔からSMAPの現在に至るまで、
仲間と始めた楽しいことがビジネスや人間関係とともに異なる
様相を呈してくる苦々しい現実だった。いいコンビだったと思
う。大抵の場合はドン・ヘンリーが思索的な詩人となり音楽に
深みを与えた。もう一方のグレン・フライは陽気なハンサム・
ガイを演じながら「気楽に行こうよ」と呼びかけた。その両軸
がうまく噛み合っていた。仲間たちがそれを支え、テキーラ・
サーキットと呼ばれる豊潤な音楽シーンが形成された。彼らの
歌やハーモニーはローレル・キャニオンに響き渡った。もうあ
の若葉のような季節は戻ってこない。

追悼:グレン・フライ_e0199046_13442079.jpg

by obinborn | 2016-01-19 13:44 | rock'n roll | Comments(1)  

Commented by ダグラス at 2016-01-22 13:38 x
小尾さん、こんにちは。御無沙汰です。

ご存知と思いますが、イーグルスやグレン・フライの大ヒットを書いたジャック・テンプチンが只今、初来日中です。あと2公演。

グレンが亡くなった事はもちろん、大きなショックでしたが、長年の良い友達のライフのセレブレーションとしてジャックがグレンと一緒に書いた曲をたくさん歌っています。(未発表の曲も。)

今日、22日(金)、京都のジットク。075-841-1691
Open 17:30 Start 19:00

26日(火)はツアーの最後は下北沢のGarden。
03-3410-3431 Open 18:00 Start 19:00

Peaceful Easy Feeling, Already Gone, Slow Dancing (Swayin’ to the Music), 他たくさんの素晴らしい曲を演奏してもらいます。
Tom Waits, Glenn Frey, Chris Hillman, Johnny Rivers, についての話もたくさん聴けます。 Funky Kingsの話も、もちろん。

詳細:
http://buffalo-records.com/newstopics/info/JackTempchin.html
Facebook: https://www.facebook.com/events/432850360243813/

よろしくお願いします。

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