ニール・ヤング『今宵その夜』

ニール・ヤングの75年作『Tonight the Night』はドラッグで
命を落としてしまった彼のローディだったブルース・フェリ
ーと、クレイジー・ホースのギタリストだったダニー・ウィ
ットンに捧げられたアルバムだ。何でもメンバー全員がテキ
ーラを痛飲しながら夜中に始めたセッションをそのまま録音
したらしく、演奏はかなりラフで編曲が練られているわけで
もないが、それ故に生々しい感情の襞が伝わってくる。よく
こんなレコーディングをメジャー会社のリプリーズがO.Kし
たものだと思う。マーケッティングが隅々にまで行き亘った
現在ではおよそ考えられない光景だが、ぼくは『渚にて』と
並んでニールのなかでは最も好きな作品だ。ストーンズ「レ
ディ・ジェーン」のフレーズを盗んだと告白する「ボロード
・チューン」でのピアノの弾き語り、ニルス・ロフグレンが
蒼白い炎のようなギターで貢献する「スピーキン・アウト」、
ダニーがヴォーカルを取ったクレイジー・ホースのライブを
収録した「カモン・ベイビー・レッツ・ゴー・ダウンタウン」
など忘れ難い曲が多い。なかでも”ハイスクールの頃のように
裸足になって川でパシャパシャ泳ぎたい。小銭を鳴らしなが
らね”とニールが本当に泣きながら歌う「メロー・マイ・マイ
ンド」には胸を突かれた。また”その疲れた眼をもう一度開け
ておくれ”と懇願する「タイアード・アイズ」も聞く者を揺さ
ぶる鎮魂歌である。いずれも歌いたいことがあるから歌うと
いう態度に徹しているから音楽に嘘がないのだろう。ここか
らは個人的なことになるが、ぼくも何人かの友人や知人が対
岸に渡ってしまう現実に幾度か晒されてきた。そんな場面は
残酷なことだが、これからは加齢とともに増えてくるに違い
ない。またいつ自分が死の淵に立つのかもわからない。それ
はニールの曲を借りれば”ギターの弦のように細い世界”(W
orld on a String)なのかもしれない。そんなことを考えなが
ら二度目のA面に針を落としている。何だか今夜は眠れそう
にない。

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by obinborn | 2016-02-25 23:07 | rock'n roll | Comments(0)  

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