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3月27日の佐野元春&コヨーテ・グランド・ロッケストラ

27日は佐野元春&コヨーテ・グランド・ロッケストラを有楽町
の国際フォーラムにて。昨年暮れから始まったデビュー35周年
のアニヴァーサリー・ツアーも本日でいよいよ千秋楽となった
が、御祝儀っぽさを排し、音楽そのものに多くを語らせながら
テンポ良く曲を連ねていく3時間半に圧倒された。近年はシン
プルなギター・アンサンブルに特化したコヨーテ・バンドで研
ぎ澄まされた歌と演奏を聞かせてきた彼らだが、Dr.kyOnと渡
辺シュンスケによるツイン・キーボードと、久し振りにホーン
ズを帯同した広がりのある今回のロッケストラ編成も味わい深
い。あの甘酸っぱい「Sugar Time」からスタートしつつも、け
っしてノスタルジックな罠に陥ることなく、最新作『Blood Mo
on』やひとつ前の『Zooey』といった傑作アルバムから幾つか
をど真ん中に束ねるなど、佐野のアーティスティックなこだわ
りがしっかりと伝わってきた。そんな彼の態度は警告に満ちた
あの不吉な「国のための準備」をあえて終盤に持ってきたほど
の念の入れようだ。

思えば佐野は誰も成し得ていない文脈で日本のロックを開拓し
てきた先駆者だった。彼が登場する80年の3月までには洋楽の
コピーに必死だったロックや、いささか自己憐憫が過ぎるシン
ガー・ソングライターの”私小説”はあったものの、佐野ほど「
彼」や「彼女」といった第三人称のペルソナを設定しながら詩
を温め、気品あるメロディへと昇華させていった人はいない。
しかもそんな初期の無邪気な群像は歳月を経て姿を変えながら、
一児の父親が墓参りをする「希望」や、失意に満ちた「紅い月」
といった21世紀になってからの楽曲に紛れ込んでいる。きっと
敏感な感性のリスナーほど、佐野のそんな作家性に敬意を払い
自身を投影させているのだろう。そう、「アンジェリーナ」の
成長した姿が「ジャスミン・ガール」であるように。マーヴィ
ン・ゲイの悲しげなソウルに耳を澄ませていたかつての青年が、
宛もなく冬の空を見上げながら「ポーラスタア」を歌っている
孤独なきみのように。

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by obinborn | 2016-03-27 23:20 | rock'n roll | Comments(2)  

Commented by caorena at 2016-03-28 00:55
ご無沙汰しております、りーなです。
終演後リスさんと一緒小尾さんを探したのですがお会いできず残念でした。
言葉もでないほどに圧倒された三時間半、元春が何度も「ありがとう」と言ってたけど、そのたび「こちらこそ」の気持ちでした。
何なんでしょう、アニバーサリーなのに、MCで昔の話をしたときこそ懐かしいと言う感情が沸き起こりましたが、演奏では全くそういう感じはなく、むしろまだまだ発展途上の(あえて言えば声の衰えをも超越した) 勢いを見せつけてくれた今夜のライブでした。
Commented by obinborn at 2016-03-28 07:50
りーなさん、お久し振りです!探して頂いたみたいで何だか
すみませんでした。ぼくは2階の一列目で観ていたのですが、
彼のキャリアが凝縮された素晴しさで3時間半をまったく感じさせませんでした。アニヴァーサリーというよりただひたすら
歌い演奏していく様に思わず涙腺がウルウルとなってしまいました。佐野さんはこれからもいい曲を書き、いいバンドとともにぼくたちに届けてくれることでしょう。

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