グレアム・ナッシュと私

グリン・ジョンズの自伝のなかでもとくに驚かされたのは、
彼がグレアム・ナッシュを敬愛していることだった。実際
ナッシュ71年のファースト・アルバム『Songs For Begine
rs』のリミックス作業をジョンズはロンドンのベーシング・
ストリートにあったアイランド・スタジオで手掛け、とか
く一本調子になりがちなナッシュの音楽に奥行きを与えて
いる。この頃にはすっかりロスアンジェルスの要人となっ
ていた彼だが、元を正せばあの懐かしいホリーズ出身。ジョ
ンズとは同じイギリス人だけに共有する背景があったのかも
しれない。

近年ではマイク・バインダー監督の映画『再会の街で〜Rei
gn Over Me』(07年)に何気なくこの『Songs』アルバム
が登場したことを記憶されている方も少なくないだろう。あ
の忌まわしい9/11事件で妻と子供を失い精神を病んでしまっ
た主人公を心配した旧友が彼を訪ね、街へ連れ出す場面では
ブルース・スプリングスティーンの「表通りに飛び出して」
が高らかに鳴り、ヴィレッジにある中古レコード店で主人公
がふと目に留めるのが、ナッシュのこのLPだった。その場面
を深読みすれば、愛と平和を掲げたウッドストック世代が遥
か彼方へと消え去り、今やシリアスな現実認識に晒されてい
る着地点を暗示するかのよう。あるいは”原点に戻ろうよ!”
といった願いだろうか。

他ならないぼく自身も、今ではもうめったに聞かないアルバ
ムである。「狂気の軍隊」と「シカゴ」にはヴェトナム・ウ
ォーに対するごくまっとうな怒りの感情が渦巻いている。「
ビー・ユアセルフ」と「スリープ・ソング」からはナッシュ
ならではの諭すような響きが夜汽車のように、南に下る列車
(サウスバウンド)のように聴こえてくる。何でも後者はセ
ックスを仄めかす内容だという理由でホリーズ時代にリリー
スを拒否され、ナッシュが自分のソングライティング能力を
を傷付けられた楽曲であった。そういえばボブ・ディランを
歌うことに勇敢な姿を示したのは、ホリーズ時代のナッシュ
に他ならない。

今こうして日曜日の夕方に『Songs For Beginers』を聞いて
いると、自分が失ってしまった感情と、今なお保持している
気持ちとの狭間に立たされる。まるで合わせ鏡のようにそん
なことを問い掛けてくるのは、ニール・ヤングの『After The
Gold Rush』とナッシュの『Beginers』だけだ。

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by obinborn | 2016-04-10 18:29 | one day i walk | Comments(0)  

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