7月19日の木下弦二

梅雨の終わりを告げるかのように、この日夕方の東京には豪雨
が降り注いだ。そんな悪天候の只中、道に迷っていた筆者を迎
えにわざわざ駆け足でやって来て、道案内するのが木下弦二ら
しい。東京ローカル・ホンクでのスリーデイズを無事終えた彼
は、19日神田小川町のショーンという小さなバーで弾き語りの
ソロを行った。しかも普段の木下が看板とするセミアコではな
く、プラグド・インのアクースティック・ギターを使用すると
いう、極めてレアな驚きとともに。

雨の火曜にもかかわらず会場は満員だ。きっとホンクでの彼と
はまたニュアンスが異なる弦二の姿を確かめようとした方々が
集まったのだろう。実際彼は普段のソロがそうであるように、
仲井戸麗市の「スケッチ'89.夏」をはじめ、松任谷由実の「9月
には帰らない」細野晴臣の「住所不定無職」などカバー曲を交
えながら、澄み切った歌声を響かせていった。以前からたまに
取り上げてきた「上を向いて歩こう」にしても、単に永六輔の
死去という直近の話題としてではなく、混乱した今現在の日本
の写し絵となって、こちらの五臓六腑へと確実に染み亘ってく
る。弦二が直截的なプロテストソングを歌い、この世界のあり
方に異議を申し立てることは一切ない。それでも彼の優れたオ
リジナル曲は、「身も蓋もない」であれ「いつも一緒」であれ、
何かを聞き手の心に宿していく。言葉が平易であればあるほど、
弦二がギリギリまで削ぎ落したソングライティングを心掛け、
実践していることがよく解る。

アンコールの声に応えて彼が用意したのは、スティーヴィ・ワ
ンダーのYou're the Sunshine of My Life。そう、ワンダーが73
年の3月に全米ポップ・チャートの一位へ押し上げた名曲であ
る。このハッピーソングでは、明るく無邪気な戯れが深い喪失
と隣り合わせになっている。そんな複雑で傷だらけの様相を、
木下弦二は笑顔のなかに、暖かい太陽のなかにそっと包んで
いく。

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by obinborn | 2016-07-20 02:06 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

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