ニール・ヤング『TIME FADES AWAY』

やばいやばい。懐かしい写真を見て昔を思い出していたら眠れ
なくなってしまい、起き出して深夜ニール・ヤングの『TIME
FADES AWAY』(73年)をコーヒー飲みながら聞いている。
ヤングにとって最初のライブ・アルバムとなった本作は、当時
行われた全米ツアーからシアトル、クリーヴランド、サンディ
エゴ、サクラメントでの音源を収録しているが、全8曲がすべ
て新曲で構成されるという画期的なものだった。通常ライブ作
といえばファン・サーヴィスのためのグレイテスト・ヒッツ集
であったり、アーティストにとって活動に一区切り付ける意味
合いがあったり、またはレコード会社が人気にあやかって勝手
にリリースする場合もあるのだが、そうした慣習をヤングは覆
して、73年時点での”現状報告”にしたのだった。そういう意味
では、のちにジャクソン・ブラウンが新しいナンバーばかりの
ライブ作『RUNNING ON EMPTY』を発表する伏線となったの
かもしれない。

72年〜73年のヤングといえば、アルバム『HARVEST』が全米
で第一位に輝き、シングル・カットされたHEART OF GOLDも
また72年の2月、堂々と一位にチャート・インしている。そん
な意味では彼にとって最初の頂点であり、ジェイムズ・テイラ
ーやキャロル・キングの活躍とともにシンガー・ソングライタ
ーの大ブームを巻き起こしたわけだが、必要以上の名声を得て
しまったヤングは新たに苦悩を抱え込むことになった。「もう
僕は大きな会場ではやりたくない。これからは無名のバーや小
さなクラブ、つまり聴衆の顔がはっきり見える場所で歌いたい
のさ」これはヤングの本音であっただろう。

『TIME FADES AWAY』が収録された会場が比較的大きいこと
は歓声の大きさからも容易に想像出来る。そういう意味ではヤ
ングの意思に背いていたのかもしれない。しかしヒット曲のH
EART OF GOLDや当時の最新作『HARVEST』からのナンバー
を焼き直すのではなく、新曲ばかりで徹底的に固め打ちしたと
ころに、ヤングのアーティスト魂を感じずにはいられない。そ
れも内省的なピアノの弾き語り歌L.A、苦みに満ちた自己遍歴
を吐露したDON'T BE DENIED、ヤング自らが監督となった映
画のタイトル・トラックJOURNEY THROUGH THE PAST、の
ちに定期化される障がい児のためのベネフィット・コンサート
の名前を冠したTHE BRIDGEなど、重要曲が演奏されているの
だから、ファンにはたまらない贈り物だ。

とりわけB面最後を飾る長尺のLAST DANCEは劇的な盛り上が
りを見せる。ジャック・ニッチェのピアノもいいし、ティム・
ドラモンドのベースとジョニー・バーバータのドラムの骨太な
コンビネイションが何よりもヤングの実像を伝えようと懸命に
なっている点が素晴しい。加えてクロスビー&ナッシュがコー
ラスで盛り上げ、ベン・キースのペダル・スティールが砂埃を
舞い上げていく。クレイジー・ホースとの荒れ馬ぶりが湾岸戦
争への抗議とともに轟音で示されたのちの『WELD』も価値あ
るライブ作であり、その際に共演したソニック・ユースに刺激
されたノイズ・エクスペリエンス王『ARC』も重要な副産物だ
が、その発端は間違いなくこの『TIME FADES AWAY』にある。
そのことを忘れずにいたい。このアルバムはハル宮沢的なナイ
ーブと中山義雄の黙示録の肖像。傷だらけのロック、血塗れの
国旗、果たされなかった約束の縮図なのだ。きみは元気かい?
もうすぐ夜が明け、エレクトリック・ギターの凱旋が始まる。

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by obinborn | 2016-11-04 04:47 | rock'n roll | Comments(0)  

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