ローリング・ストーンズ『ブルー・アンド・ロンサム』に寄せて

『ブルー&ロンサム』は収録曲の半分しか知らない音楽評論家を
青ざめさせ、ブルーズ愛好家を意気揚々とさせるブルーズのカバ
ー・アルバムだ、と昨日書いた。その気持にいささかも変わりは
ない。ビギナーや一般的なリスナーはともかくとして、少なくと
も公の場で文章を書いている音楽ライターや評論家だったら、最
低でも半分は原典作品を知っていなきゃ。そんな意味を込めた。

実際のところ、ぼく自身も”青ざめた”書き手の一人だった。勿論
個々のアーティストに関してはレコードを持ち、それぞれの音楽
性を把握していたのだが、楽曲単位での記憶という点ではおぼつ
かないものが少なくなかったのだ。ブルーズという音楽の構造上
個々の楽曲の識別が難しいという側面を考慮したとしても、実に
脇が甘いと言わざるを得ない自分を呪った。

そのように『ブルー&ロンサム』は激渋のブルーズ集となってい
る。例えばハウリン・ウルフであれば「44 Blues」や「Evil」もし
くは「Smokestack Lightnin'」、リトル・ウォルターだったら「
My Babe」や「Off The Wall」あるいは「Mellow Down Easy」と
いったナンバーが看板だろうが、そうした犬でも知っているよう
な(手垢に塗れた)作品を外し、もう少し地味な選曲を心掛けた
様子が伝わってくる。シカゴ・ブルーズを軸にライトニン・スリ
ムのルイジアナ・サウンドまでに足を伸ばす。そんなストーンズ
が魅力的だ。

それにしてもミック・ジャガーの精気に満ちたヴォーカルやブル
ーズ・ハープはどうだろう。とても70歳を超えたおじいさんの姿
とは信じられない。むろん他の三人にしても、生き生きと活気漲
る演奏を繰り広げている。原点回帰と言ってしまえばそれまでだ
が、やはりローリング・ストーンズという母船が帰っていく場所
とは、ブルーズという大きな港なのだろう。若さに物を言わせて
いた時期をとっくにやり過ごし、年齢と闘いながら築いてきた長
い道のり。もしかしたら彼らのそうした歩みこそがブルーズだっ
たのかもしれない。老練したロック・バンドの現在地点として、
これほど正直で誠実なアルバムは他にないだろう。今ぼくはそん
なことを思い始めている。

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by obinborn | 2016-12-03 07:29 | blues with me | Comments(0)  

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