鈴木カツ『ぼくのアメリカ音楽漂流』に寄せて

いわゆるルーツ音楽に対する認識は両極端に分かれていると
言っていいだろう。ある者はこちらがたとえ黙っていても熱
心に掘り下げているし、またある者は「そんなモン関係ない
じゃん」とうそぶく。後者に関してはもったいないなあ〜と
いう感想を個人的には抱くものの、こればかりは強制出来ま
せんよね。でも、ある日何かがきっかけになって過去の音楽
と出会うことになるかもしれない。

そんな方のための的確なガイドブックが鈴木カツさんの最新
刊『ぼくのアメリカ音楽漂流』(シンコーミュージック)だ。
数多くの著作をものにしてきたカツさんにとって、いわば音
楽人生の集大成と呼ぶべき入魂の一冊であり、全部で432ペ
ージにも及ぶヴォリュームに圧倒される。アメリカ各地で育
まれてきたヒルビリーやカントリー、ブルーズやオールド・
ジャズに耳を傾け、黒白隔てなく長年に亘って解説してきた
著者ならではの労作だと思う。時代は40年代から70年代まで
と広がりを示しながら、ジェフ・マルダーやライ・クーダー、
グラム・パーソンズといったルーツ・ロック的な視点へと着
地する。どれも著者がリアルタイムで聞いてこられた音楽の
数々だけに、妙な気負いも背伸びもない。

ちょっとした個人史から書き出し、その音楽家のバイオグラ
フィを丁寧に調べ上げ、アルバムの楽曲解説へと分け入って
いく。そういう意味では洋楽アルバムの日本盤に付けられて
きたライナーノーツの佳き伝統に忠実な文章家としての作法
が全面的に開示されている。余分な修辞を避けた平易な語り
口がいい。作者と親しい方々であれば、カツさんが以前築地
で営まれていた音楽バー、エニイ・オールド・タイムでの時
間を懐かしく思い起こすことだろう。とくに感心したのは、
中盤二つのパートに股がって収録された南部のスタジオとミ
ュージシャンの見取り図だ。昔に比べれば随分研究が進めら
れてきた分野ではあるが、依然謎の部分は多く、私自身もこ
の点について過去書くのに苦労させられた記憶がある。しか
し、このコラムでのカツさんの筆運びは俄然生き生きとして
いる。

本編で語られるアルバムはむろんのこと、それに付随する関
連作にも何気なく触れ、ジャケット写真を提供した構成が優
しい。いわば「敷居は低く、研究は深く」の実践だ。この本
を道しるべにこれから音楽への好奇心を広げていく若者たち
がちょっぴり羨ましい。たとえアメリカに暮らしていても解
らないことは解らない。それを著者は俯瞰し精査する。愛で
ながらしっかりと語る。本のタイトルには”漂流”と冠された。
カツさんが舵を取る音楽という小舟の漂流は、けっして終わ
らない。

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by obinborn | 2016-12-17 14:25 | one day i walk | Comments(0)  

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