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トニー・ジョー・ホワイト、あるいは彼のこぼれ話

トニー・ジョー・ホワイトの珍しい日本盤を棚から引っぱり
出してきました。これは昔テイチク・レコードがリリースし
た日本独自の企画で、モニュメント時代に残された3枚のア
ルバムから選曲されています。解説は故桜井ユタカ氏。桜井
さんはR&B・ソウルの評論や長く続いたミニコミ『SOUL O
N』の主宰者として有名ですが、以前は結構ロック関連の原
稿も書いていました。昔の評論家の基礎体力を感じたりする
のはこんな時です。一度だけ渋谷のメルリ堂でお見かけした
ことがあるのですが、私なんぞ畏れ多くってとても声を掛け
られませんでした。

モニュメント時代のトニー・ジョーは荒削りでいいですね!
ワーナーに移籍してからのほうがアルバム・アーティストと
しての風格は出てくるのですが、なり振り構わずフンパー・
ストンパー(ワウワウとクライベイビーを抱き合わせたエフ
ェクター)を踏み、野趣剥き出しのテナー・ヴォイスで歌い
まくる点では、この初期(60年代後半)がベストかもしれま
せん。看板の「ポークサラダ・アニー」や「ソウル・サンフ
ランシスコ」で見せるボビー・ジェントリーへの傾倒ぶり、
ブルック・ベントンによって全米NO.1に輝いた「雨のジョー
ジア」の作者版で伺える詩情、どちらも文句の付けようがあ
りません。

さらにカバー曲を見渡していくと、スリム・ハーポの「スク
ラッチ・マイ・バック」(俺のベイビーは背中を引っ掻くぜ
という性的な意味w)オーティス・レディングの「ハード・
トゥ・ハンドル」(ブラック・クロウズがやっていました)
ジョン・リー・フッカーの「ブーン・ブーン」(私は日本の
スパイダーズ経由で知りました)と、トニー・ジョーの音楽
的な故郷がルイジアナやメンフィスにあることを否応なく思
い知らされる次第です。何でも彼が音楽を志すきっかけは兄
貴が買ってきたライトニン・ホプキンスのレコードだったと
か。

「俺が歌にするのはすべて日常のことだよ。ルイジアナでの
暮らし、ポークサラダの食事、気怠い七月の午後のベースボ
ール、いいかい?たとえヒモの歌にしても俺はもっと深い男
と女の結びつきをテーマにしている。ドニー・フリッツのア
ルバムでの掛け合いも最高だった! そして『EYES』での
女性のセクシーな声。あれは彼女と肩を組みながら(実際、
インタビューの席でトニーは通訳の前むつみさんの肩を抱い
たw)レコーディングしたのさ」

「ロリー・ギャラガーは本当にいい奴だった。彼には本物の
ソウルがあった。俺らはまるで兄弟のように仲が良かった。
俺は彼の『カラスが飛ぶように』を歌うことでロリーの存在
を感じたかったんだよ。そうそう、この前のヨーロッパ・ツ
アーでアイルランドを訪ねた時、ロリーの弟(彼がロリーの
全音源を管理し、きちんとした形でリイシュー・プロジェク
トを進めた)が楽屋に来てくれた。嬉しかったよ。俺たちは
ビールを飲み、今は亡きロリーの思い出を語り合ったのさ」
このテイチク盤を聞いていると、2007年の春に再来日した
トニー・ジョーのこと、光栄にも横浜のホテルでインタヴュ
ーが実現し、記事として採用されたことが甦ってきます。

やっぱ最高です。愛しています、トニー・ジョー!
*取材協力『レコード・コレクターズ』『トムス・キャビン』


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by obinborn | 2016-12-17 17:50 | one day i walk | Comments(0)  

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