荒井由実『MISSLIM』のこと

荒井由実の『MISSLIM』は74年の7月15日からレコーディング
が開始され、8月6日にほぼ全ての生録りが終了している。わず
か一ヶ月足らずの期間に奇跡のような瞬間が何度も何度も訪れ
た。プロコル・ハルムとフランソワーズ・アルディに憧れてい
た八王子の呉服屋の娘が、キャラメル・ママの面々による素養
溢れる歌伴と出会った。ファーストの『ひこうき雲』以上に練
られた歌と演奏の関係には、ジョニ・ミッチェルとL.A.エクス
プレスのそれを見る思いがする。

「生まれた街で」が好きだった。続く「瞳を閉じて」をもっと
好きになった。堅苦しいメッセージ・ソングではなく、まして
貧乏を自分の味方に付けた四畳半フォークでもなく、荒井由実
は自分の視界から見える光景を育み、しっかりと歌った。歌唱
そのものについては感想が分かれたものの、大貫妙子の歌と同
じように、そこには作者版ならではのひたむきさが映し出され
ていた。

彼女が一番多感だった10代から20代にかけての歌の数々を、今
のぼくはどういう風に聞いているのだろう? 一体どのような
態度で受け止めているのだろう? はっぴいえんど伝説はあま
りに鬱陶しい。ぼくはもっと自分自身に残っている温かい場所
で荒井由実を語りたい。目の前で揺れている冬の暖炉を見つめ
るように、いつか彼女のことを、彼女が見て来た風景や痛みの
感情を言葉にしてみたい。

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by obinborn | 2016-12-17 19:38 | one day i walk | Comments(0)  

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