1月13日:川上弘美の小説と、ヴァン・モリソンの音楽と

川上弘美さんの連作小説『どこから行っても遠い町』を久し
ぶりに読み直してみた。まずこの人は文章が上手い。参考に
なるとかならないとかいった次元ではなく、書かれた活字か
ら登場人物の息遣いがふわりと立ち上がり、日常の何でもな
い風景や暮らしぶりがくっきり立ち現れる。また掌に収まる
かと思ったら、今この瞬間にも零れ落ちてしまうような切な
さを秘めている。男女の行き違いが、加齢による喪失と気付
きが、大きな時間のなかで自分を見つめることが、さらりと
提示され、またすぐに彼方へと消え去っていく。こんな珠玉
のような作品と再び出会えたことを噛み締める。

音楽も同じことだ。ヴァン・モリソンの歌やソングライティ
ングに示されるのもまた、大きな時間と小さな暮らしのこと。
恒久の流れのなかでの自問や、何かを愛でる心のありかのこ
と。これまでも何度かレビューを書いてきたので、ここでは
繰り返すのを最小限に留めるけれど、少ない音数のなかで多
くを伝えるというヴァンの語法が、近年はより冴え渡ってい
る。抑えた歌唱がじっくりと周りを見渡し、低くなってしま
った声域が、かえって人生の陰影を味方に付けている。そん
な彼の歌を聞ける喜びは何物にも代え難いものだ。

冬至を超え、柚子風呂を終え、七草粥を食べながら正月が終
わった。今年はどんな人たちと出会えるのだろう。どんな人
たちを失ってしまうのだろう。夕方5時の買い出しに出掛けた
ら、以前よりも残っている陽射しが見えた。少しだけ伸びて
いく自分の影を感じた。

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by obinborn | 2017-01-13 18:39 | one day i walk | Comments(0)  

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