アカデミズムの妖怪、労働の実感
以前奥田英朗さんの『最悪』を読んだ時、小さな町工場を
経営するオヤジさんの日常が描かれていてとても興味深か
ったです。得意先からの突き上げ、差し迫る納期、無断欠
勤する若い従業員、切実なコスト意識、融資を勧めたかと
と思えば一転して貸し渋る銀行員の豹変...などなど、バブ
ル崩壊以降の零細企業の経営者の生態とはこういうものか
な、と考えさせられました。今盛んに「アルバイトの最低
時給を1500円に!」なる運動が行われていますが、さしず
めこの工場主なら「ご冗談を!」と一笑に付すでしょう。
実体経済をまるで理解していないアカデミズムの論者たち
の昨今の発言が気になります。思い付くままに振り返って
みると内田樹が「これからの日本はもう低成長でいい」論
を唱え、小熊英二は「非正規雇用者の賃金を正社員の倍に
すれば日本の未来は開ける」説をぶち上げました。上野千
鶴子に至っては「ユニクロの服とツタヤのレンタルビデオ
でロウライフを送りなさい」と現在の若者たちを突き放し
ました。彼らは実社会での労働を体験せず、大学で教鞭を
執りながら論壇に登場するだけの狭〜い世界の住人なので、
このような妄想に陥ってしまうのでしょう。
様々な問題点を抱えながらも現内閣の支持率が高止まりな
理由は、恐らく彼らのような左派〜リベラルの識者が空虚
なロジックばかり並べ立てているからでは?と私は密かに
分析しています。入社式で「これから我が社は低成長で行
きます」と新入社員に訓示する社長がいますか?経営者の
全国会議で「非正規雇用者の賃金を正社員の倍にしよう」
と発議する管理職がどこにいますか?厳しい日本の経済を
知らない者たちの戯言に過ぎません。まして上野のロウラ
イフ提唱に至っては何を言わんや?と呆れるばかり。
ありていに言えば彼らは夢を語らない。自分たちはさんざ
ん高度成長〜バブルの恩恵を受けてきたくせに、引退間際
になってロウライフを唱える。もう成長しなくていいと説
教する。彼らのこうした論理を突き詰めると「みんな平等
に貧しく」的な社会主義の世界観と大差ないのでは?と疑
ってしまいます。資本主義であること、自由経済であるこ
との良さ、本来あるべき自由な競争原理を彼らは何故か語
らないのです。
ところで私が暮らしている江古田は、パン屋とラーメン屋
さんの町として近年活況を呈しています。老舗に胡座をか
いていた旧商店がどんどん廃業し、若くやる気のある人た
ちがそれに取って代わるという新陳代謝がうまく行ってい
るんですね。こういう光景は長く同じ町に暮らしている私
にも実に刺激的です。「低成長でいい」というアカデミズ
ムの妄言とは裏腹の現実への覚醒と労働の実感。そして何
よりも自主独立のスピリットがある。私が共感するのはこ
ういう人たちです。
by obinborn | 2017-04-23 06:33 | one day i walk | Comments(0)