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エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズ『ALMOST BLUE』

「このアルバムはカントリー&ウェスタン・ミュージックが
含まれています。だから心の狭い人々は過剰な拒否反応をす
るかもしれません」エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクショ
ンズが81年に発表したLPには、そうした警告文のステッカー
が貼られている。

無理からぬことかもしれない。何しろパンク/ニューウェイブ
のムーブメントとともに登場したコステロが、カントリー音
楽の本場ナッシュヴィルに赴いて作った”もろカン”の内容に
他ならなかったから。しかもプロデューサーには現地のビリ
ー・シェリルを据えるという徹底ぶりだった。選ばれた楽曲
もジョージ・ジョーンズのBROWN TO BLUE、マール・ハガ
ードのTONIGHT THE BOTTLE LET ME DOWN、ドン・ギブ
ソンのSWEET DREAMS...といった具合にカントリー・ミュ
ージックの古典で埋め尽くされていた。

あえてR&B〜ロックンロール色を探すとしたら、ジョー・タ
ーナーがヒットさせたHONEY HUSHくらい。余談だけど、
ぼくはこの曲を最初ブギ・ロックの素敵な四人組フォガット
のヴァージョンで知った。それはともかく、ここまでカント
リーに特化したアルバムを企画するなんて、コステロもなか
なかやるじゃん!と当時まだ学生だった筆者は密かに思った
ものだ。加えてゲストに参加していたのはジョン・マクフィ
ーだった。本作は彼のギターとペダル・スティール・ギター
が大活躍したアルバムとしても、長らく記憶されるだろう。

実はこの名作『ALMOST BLUE』に惹かれたことにはぼくな
りの理由がある。それはあまたのカントリー古典に混ざって
グラム・パーソンズの曲を2つも取り上げていたからだった。
グラムがフライング・ブリトー・ブラザーズ時代に発表した
I'M YOUR TOY(HOT BURRITO#1)がそのひとつ。グラムが
ソロ・アクトに踏み出した記念碑『G.P』からのHOW MUCH
I LIEDがもうひとつ。グラム・パーソンズといえばロック世代
にカントリー音楽の素晴らしさを問いかけ、実践していった
先駆者だ。コステロがグラムに刺激されながらカントリーに
目覚めていった様子は想像に難くない。この2曲をセレクト
したことで、ぼくはコステロにより親近感を覚えたものだっ
た。そう、ちょっとだけ年上の兄貴の音楽遍歴に触れたよう
な。

”心の狭い人々”とは何も他人にばかり向けられたものではな
いだろう。ぼく自身が音楽に限らず、人生の様々な局面で陥
りがちになる視野狭窄のことかもしれない。エルヴィス・コ
ステロ&ジ・アトラクションズは問い掛ける「本当にブルー
な気持じゃんかよ」と。とくにALMOST BLUEという曲が収
録されている訳ではない。だからこそアルバム表題にコステ
ロが込めた気持を汲み取りたい。このアルバムは81年の5月
18日から29日まで、比較的短期間でレコーディングが終了し
ている。あっぱれ!それはまさにロックンローラーがカント
リーと出会った濃密な時間だった。


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by obinborn | 2017-05-01 12:55 | rock'n roll | Comments(0)  

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