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ジェシ・エド・ディヴィス、再び

ジェシ・エドの『キープ・ミー・カミング』はお茶の水のデ           ィスク・ファイルで86年頃に買い、それ以来の大愛聴盤だ。
多分に顔見せ的なセッションに終始した英国録音のファース
トも好きだが、マイアミ録音のセカンド『ウルル』、LAのパ
ラマウント・スタジオで吹き込まれたサード『キープ〜』で
ジェシは格段の成長を遂げた。その一例としてリズム・セク
ションの強化が挙げられる。『ウルル』ではダック・ダン=
ジム・ケルトナーのコンビが大活躍して太いグルーヴを生み
出していたし、この『キープ〜』ではボブ・グラウブ=ケル
トナーにすべてを委ねることでビシッとした統一感を醸し出
している。いくらギターが優秀でもベースとドラムがアホだ
ったら音楽は成り立たない証だよね。ボブはのちにロッド『
アトランティック・クロッシング』で名を成した西海岸の中
堅どころのプレイヤーですわ。一曲めのBIG DIPPERがインス
トで始まり、次にジェシの飾らないヴォーカルが染みるShe'
s A Painへと連なっていく展開が考え抜かれている。BIG〜で
は多くの曲をジェシと共作したジョン・アンジェロのハーモニ
カに味がある。そのアンジェロが単独で書き上げたWHO PUL
LED THE PLUG?のゴスペル・フィーリング(&ライブ仕立て)
がじわりと染み入ったり。

個人的に一番グッと来るのはNATURAL ANTHEM(自然讃歌)
かな。スタジオ内でのメンバーの歓声から入り、一度イント
ロを失敗してやり直す部分まで克明に記録されている。過剰
にクリアかつピッチの補正ばかり行っている昨今の毒にも薬
にもならないポップ・ミュージックとは音楽の下地が違う。
きっとどこまでも自発的な演奏を重視したかったのだろう。
そんな優れたインスト曲だ。もう一曲オイラがとくに好きな
曲を挙げよう。それはアンドレ・ウィリアムズ作のBACON
FATで、この曲はサー・ダグラス・クィンテットが全国区に
羽ばたいていったファースト・アルバム『THE BEST OF SI
R DOUGLAS QUINTET』時のセッション(但しアルバム未
収録、シングルB面のみ)で録音している。またジェシの恩
人であるタージ・マハールも『GIANT STEP』で選曲した。
こんな接点が面白い。ちなみにアンドレはガレージ・ロック
愛好家から再評価されているブルーズマンで、ザ・フーもア
ンドレのDADDY ROLLING STONEを初期にカバーした。

自分なりにジェシ・エドが参加したレコードはジーン・クラ
ーク、ジム・プルト、ロジャー・ティリソンの”ジェシ三大
プロデュース作”を始めとして、アーロ・ガスリーの名盤『
最後のブルックリン・カウボーイ』からアルバート・キング
の『LOVE JOY』まで集め聞いてきたけど、それでもまだ足
りない部分はあるだろう。まして彼の出自となる黙示録的な
ネイティヴ・アメリカンの音と詩の朗読(ダブ・ポエットの
ようなもの)を理解出来ているかと言われれば心もとない。
それでもオイラは今日もまたジェシの人間味溢れる歌と、ま
るで肉声のようなギターに胸を焦がされ続けている。一音一
音に”言葉”を持たせた丁寧な運指、スライド・バーによる中
間音のアプローチ。そんな個性を知らされたのはジェシ・エ
ド・ディヴィスがまさに初めてだった。

「俺はビートルズじゃないぜ。ローリング・ストーンズのメ
ンバーでもない。だから俺は自分のブルーズを歌う。ただそ
れだけさ」アルバム『ウルル』に収録されたRED DIRT BOO           GIEで、ジェシはそう歌い出す。独立独歩の宣言。誰にも浸食
されない世界観。そうした思いが73年の『キープ・ミー・カ
ミング』へとしっかり受け継がれていった。


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by obinborn | 2017-06-15 17:38 | one day i walk | Comments(3)  

Commented by tapara at 2017-06-18 14:11 x
おびさん、


「キープ・ミー・カミング」は俺等家においても、愛聴盤です。
また、当方にも、彼の1&2編集盤が届きました。
楽しみにしていた未発表の2曲も良く、気に入っております。

今回の記事の中の”ジム・プルト”という人を知らなかったのですが、どんなスペルですか。また、どんな曲調アルバムですか。差支えなければ、ご教授いただけるとありがたいです。
Commented by obinborn at 2017-06-18 17:03
> taparaさん、JIM PULTE(パルト?プルト?)という英スペルになります。この人は元々
米西海岸のサウス・ウィンドという60年代のバンドでベースを担当していたのですが、その
後才能が開花し、2枚のアルバムをユナイテッド・アーティスツ・レーベルに残しました。一枚
めの『OUT THE WINDOW』がジェシ・エドの制作、ジョー・ザガリノ(ザ・バンドやボビー
・ウィットロックなど)のエンジニアリングです。スワンプ・ロックがお好きなら間違いなく
気に入ることと思います! なおジムさんは21世紀になってから久し振りのカムバック作をリリー
スしました。そちらもなかなか良いですよ。
        
Commented by tapara at 2017-06-19 10:28 x
おびさん、

おはようございます。

ジム・パルト氏のアルバム情報、丁寧なご指南ありがとうございました。
なるほど72年制作で、少し調べてみると確かにエンジニアはOk、バックのメンバーも良い人が多いですね。ジャケもよさそうだと思ってみると、ノーマン・シーフが関わっていますね。
俺等はスワンプ等あまりこだわらないのですが、
古いLPだから、そう簡単には入手できないでしょうが、アンテナを貼っておきます。

多謝でございます。

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