再訪:ジェシ・ウィンチェスター『TALK MEMPHIS』
ルイジアナ州出身でメンフィスに育ったジェシ・ウィンチェ
スターにとって、メンフィスのロイヤル・スタジオで録音し
た『TALK MEMPHIS』(Bearsville 81年)は念願のアルバム
だったことでしょう。しかもウィリー・ミッチェルがプロデ
ューサーとしてセッションを見守ってくれたのですから。こ
の地でレコーディングした非ブラック圏アーティストとして
は加川良さんの作品がまず浮かんできますが、それと並ぶ傑
作だと思います。ジェシの盤は残念ながらホッジズ/ホッチズ
/ホッチズ/グライムスのスタジオAチームではなく、一般的に
はあまり知られていないコブ/フィッシャー/トールズ/ミッチ
ェルですが、Aチームに負けない豊潤なサウンドで貢献して
いるのがもう嬉しくって。
しかもこの記念碑の裏にはジェシが辿った個人史が横たわっ
ています。そう、皆さんご存知のようにベトナム・ウォーへ
の従軍を拒否した彼は、カナダのトロントへと亡命しおよそ
6年間の隠遁生活を余儀なくされました。そんなジェシが母
国アメリカに帰国出来たのは77年のことでした。ジミー・カ
ーター大統領が発令した"特赦”によるものだったのです。
この『TALK MEMPHIS』をそんな背景を思い浮かべながら
聞いていくと、何とも言えない感慨が湧いてきます。ジェシ
は何もとくに政治的な歌を作ってきたわけでは一切ありませ
んが、何でもない暮らしやありきたりの愛を歌う彼の歌から
時代のきしみのようなものがしっかり伝わってくるのです。
まるで夏草のように伸び伸びとした音楽。その瑞々しさ。
なお余計なお世話かもしれませんが、サブ・テキストとして
ティム・オブライエンの自伝的な著作『本当の戦争の話をし
よう』をぜひ。
残念ながらジェシ・ウィンチェスターはもうこの世にいませ
んが、米Rolling Stone誌は追悼記事で彼をこう讃えていまし
た「アンチ・ベトナム・ウォーに貢献した優れたソングライ
ターだった」と。
by obinborn | 2017-08-16 19:38 | one day i walk | Comments(0)