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スティーリー・ダン、再び

1973年に発売されたアルバムだが、まるで今日リリースされ
た新作のようにフレッシュな音楽だ。ベッカー=フェイゲン
が当時どこまで”未来まで残る”ことを意識していたかどうか
は知る由もない。ただ昨今のポピュラー音楽がジャンクフー
ドの如く消費されている現状を思えば、この生命力は奇跡に
も近い。スティーリー・ダンにとっては『CAN'T BUY A TH
RILL』に続く二作めであり、創設期のメンバーだったデニー
・ダイアスとジェフ”スカンク”バクスターのめくるめくギタ
ーが存分にフィーチャーされている。フェイゲンの「I.G.Y」
を予見させるBODHISATTVAの精緻なサウンド・デザイン、
「リキの電話番号」の前哨戦とも言うべきジャジーなRAZO
R BOY、ゲストに招かれたリック・デリンジャーが糸を引く
ように濃密なスライド・ギターで貢献したSHOW BIZ KIDS
など印象に残る演奏が多い。とくにMY OLD SCHOOLでの
スカンクのギター・ソロは圧巻であり、彼がドゥービーズに
移籍してから発表したマーヴィン・ゲイのDEPENDED ON
YOUでのプレイと同じくらいフレージングには閃めくアイ
ディアが満載されている。

もともとスティーリー・ダンはロック音楽の辺境から生まれ
てきたグループだった。いわゆるロック・バンドの汗くささ
やメッセージ性とは無縁。いや、むしろそうした態度と距離
を置くことで彼らはシニカルさや皮肉やユーモアを携えてい
ったのだった。いささかスタジオでの作業が細かすぎるとい
う弱点はあったものの、それも体育会系のノリに対する反発
と見ていけば彼らのラジカルさがよく解る。ベッカー=フェ
ィゲンのソングライティングにしても、僕は悲しいとか俺は
寂しいとかの自己吐露は殆ど見受けられない。その代わりに
ちょっと俯瞰してみる第三者的な視点がSHOW BIZ KIDSやM
Y OLD SCHOOLには活かされている。近年のボズ・スキャッ
グスが取り上げたPEARL OF THE QUARTERはどうだろうか
?僕はボズのヴァージョンでこのベッカー=フェイゲン作の
素晴らしさを改めて知ることになる。単純なラブソングには
求められない”四分の一の真珠”というメタファーが、聞き手
の心を捉え、夜明けに見る痛い夢のように想像力を刺激する。

まるで浮遊するような不可思議なメロディの置き方。ペンタ
トニックやブルーノートには決して回収されない独自のスケ
ール(何しろBODHISATTVAのエンディングに至っては東洋
的ですらある)それらのひとつひとつの価値、気まぐれな勝
算、生意気な盛りな青年時代の気取り、あるいは照れや恥と
いった秘めやかな感覚。私にとって73年の『COUNTDOWN
TO ECSTASY』はそのような音楽であり、出来ればそのこと
をずっと覚えておきたい。


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by obinborn | 2017-09-12 17:42 | one day i walk | Comments(0)  

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