マーク・ベノの定点観測

マーク・ベノに関しては語り尽くしてきた感があるものの、
先日950円で『LOST IN AUSTIN』の英国盤を見つけたの
でまた買ってしまった。言いたいこともある。それはベノ
の過去3枚のアルバムがアメリカ西海岸で録音されてきた
のに対し、この79年作では初めてイギリスに飛び、プロデ
ューサーにグリン・ジョンズを迎えた点だ。レコーディ
ングはジョンズのお膝元であるロンドンのオリンピック・
スタジオ。こうした環境の変化がベノの音楽に新しい風を
巻き起こしているような気がする。さらに演奏陣は当時ア
ルバート・リーを新メンバーに迎えたばかりのエリック・
クラプトン・バンドだ。E.Cはこの頃『スロー・ハンド』
(77年)『バックレス』(78年)といずれもグリン・ジョ
ンズ制作のオリンピック・スタジオ録音というアルバムを
たて続けに発表していたが、ベノとE.Cとの結びつきをジョ
ンズに求めるのはごく自然なことだろう。

但し変化球もある。エリック以下、カール・レイドル(b)
ディック・シムズ(kbd)アルバート・リー(g)まではク
ラプトン・バンドからそのまま抜擢されているが、ジェイ
ミー・オルデカは当セッションに参加せず、ドラムスには
名手ジム・ケルトナーが採用されている。これまでもベノ
を支えてきたケルトナーを信頼したということだろうか。
この人選がベノによる意向なのかジョンズのアイディアな
のかは定かではないが、聞き手はクラプトン・バンドwith
ケルトナーという何とも贅沢な演奏を味わい尽くす結果と
なった。ミッドテンポでもスローでもケルトナーは絶妙の
タイム感を醸し出しているのだが、スネアの一振りだけで
もベノの歌と呼吸し合っている様がよく解る。ぼくはドラ
ムのテクニックに関しては無知だが、優れたドラマーが感
じさせる半拍遅れのワン・ショットやミュートの”間”を聞
いていると幸せな気持ちに包まれる。

このアルバムが発売された79年前後はパンク/ニューウェイ
ブが全盛を迎えつつあった頃で、昨日までアロハとジーパ
ンと長髪だった奴が、突如YMO風の人民服にテクノカット
へと切り替えるといった(ぼくには不可思議としか思えな
い)ファッションの変化も目立った。そんな戸惑いを覚え
ていた当時、ベノの『LOST IN AUSTIN』なり、アルバー
ト・リーの『HIDING』は数少ない伴侶だった。それぞれ
のアルバム表題は『オースティンで迷子になった』と『
隠れて』そこに現行のシーンと距離を置こうとするアーテ
ィストの暗喩が汲み取れる、と言ったら贔屓の引き倒しで
あろうか。それでも彼らの音楽は長い歳月に晒されながら
も色褪せなかった。きっと長距離ランナーの定点観測とは
そのようなものであり、その眼差しはまるで暗い海を照ら
し出す灯台の灯のようだ。


e0199046_04363379.jpg


[PR]

by obinborn | 2017-11-14 04:36 | one day i walk | Comments(0)  

<< 11月21日の双六亭 11月4日のロス・ロイヤル・フ... >>