カテゴリ:東京ローカル・ホンク( 66 )

 

1月31日の木下弦二

まるでジョアン・ジルベルトが降りてきたような夜だった。
柔らかい声とセミアコによる深みのある響きがどこまでも
歌を押し広げていく。そんな木下弦二の弾き語りソロ・ライ
ブを31日は中央林間のパラダイス本舗にて。「遠い願い」で
始まり「ハイウェイ・ソング」で締めくくられるまでの150
分は濃密でありながら、飽きたらよそ見してもいいんだよと
でも言いたげな主人公の心のありようが聞き手たちを優しく
包み込んでいった。終盤には藤田洋介を迎えて彼が夕焼け楽
団に在籍していた70年代の「ザット・オールド・ラッキー・
サン」「星くず」「バイバイ・ベイビー」を連ねるなど、サ
ーヴィス精神もたっぷり。そして弦二は昨朝出来たという新
曲も披露した。まだタイトルが付けられていない産声を上げ
たばかりの歌だったが、そんな瞬間に立ち会えたことを嬉し
く思う。終始ピックを使わないギターがデリケートなニュア
ンスを醸し出すところもたまらない。いい歌を聞いた夜は帰
りの電車が少しも苦痛ではない。家に帰ってきて飲む紅茶が
美味しい。そしてこんな時は無音とともに過ごしたい。時計
の針はもうすぐ午前2時を指す。

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by obinborn | 2016-02-01 02:00 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

木下弦二『natural fool』

木下弦二はいつも二つのことを強調する。一つはロック的な
価値観から離れてみて初めて自分の音楽が見えてきたこと。
もうひとつは彼にとって歌は自分の目で見る”窓”であること
だ。最初は誰もが洋楽の模倣から何らかの音楽活動を始める
のだろうが、そんな無邪気な日々はいつまでも長く続かない。
借り物の表現にはおのずと限界があり、歌の作り手たちはそ
こで壁にぶつかるからだ。この8年あまり木下弦二のステージ
やオフに触れてきて、今ぼくが思い起こすのはそんな彼の言
動である。弦二はこんな風に述懐する「ある日突然気が付い
たんです。ロック的なカッコ良さを求めていた自分は何てカ
ッコ悪いんだろうって」

そんな木下弦二にとって初めてのソロ・アルバムが『natural
fool』(2016年2月発売)だ。自分という窓から歌をスケッチ
しているという意味でも、飾らない言葉がすくっとこちらの胸
に降りてくる。起承転結のあるドラマやら暑苦しいメッセージ
やらを押し付けるのではなく、彼は歌という”窓”を借りて問い
掛ける「想像してごらん」と。歌われる言葉は簡素だが奥行き
があり、聞き手が重ねた歳月や経験によって幾多の色を自由に
塗っていける余白を残している。また優れた共演者たちが弦二
の介在役となることで一曲のなかで遠近法が可能になり、歌に
静かなケメストリーが生まれた。そのことを祝したい。

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by obinborn | 2016-01-25 19:27 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

木下弦二の『natural fool』に寄せて

「ぼくたちのバンドを聴いてみてください」木下弦二から突然
電話が掛かってきたのは07年の夏のことだった。ぼくはちょう
どお昼に定食屋で御飯を食べていた時だった。そんなことまで
よく覚えている。あれから8年が経ち、今こうして彼初めてのソ
ロ・アルバムに接していると、人との出会いの偶然に感謝せず
にはいられない。平易な日本語を綺麗に響かせる人だなという
のが最初の印象。やがて自分の暮らしてる町の様子や人々の表
情をスケッチした彼のソングライティングにすっかり夢中にな
った。今回の『natural fool』にはそんな弦二の世界がたっぷり
詰まっている。東京ローカル・ホンクで演奏してきた代表曲の
ソロ・ヴァージョンもあれば、比較的最近生まれた歌もあると
いった具合で、これから彼を聴いてみようという方にも名刺代
りにお薦めしたい。優れた歌には二律相反の感情があるとよく
言われる。それは楽しい歌を聴いているうちに悲しくなってく
る心の糸口のようなもので、陽光に照らされれば照らされるだ
け自分の影が伸びていくのと似ている。木下弦二はそういう影
絵のような歌を作れる人だ。

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by obinborn | 2015-12-04 17:36 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

12月3日の木下弦二

3日は吉祥寺のスターパインズ・カフェで木下弦二のライブを。
彼にとって初のソロ・アルバム『natural fool』のレコ発(先
行発売)だっただけに会場は大入りの祝祭感に包まれた。それ
でも彼は普段通りの気さくな歌と演奏を淡々と進めるだけ。そ
んな展開にますます好感を持った。ぼくは東京ローカル・ホン
クと合体した時の弦二の緊密な演奏が最も好きだが、セミアコ
の弾き語りを中心にした今晩のような内容だと、よりソングラ
イターとしての素の部分に触れる思いがする。そうした歌とギ
ターの場合でもほとんどフォーク的にはならず、むしろジョア
ン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾといったブラジル音
楽の芳香を湛える辺りに非凡な感性を感じる。弦二本人がどこ
まで意識しているのかは解らないが、この人には歌の多義性に
すべてを賭けているような部分がある。もう少し優しい言葉で
言えば、歌に解り易い起承転結を求めるのとは真逆の、聞き手
たちそれぞれにイマジネーションを委ねる作法だ。作者はあく
まで言葉と音によるスケッチをするだけ。後は自由に色を塗っ
てください、とでも言いたげな。最も感動的だったのは神の不
在について歌った「身も蓋もない」あるいは彼が静岡で試みた
連詩の「また会おう」だろうか。平易な言葉たちが互いに語り
合い、反応を確かめ合いながら、港からそっと舟を漕ぎ出して
いく。そんな光景にも似た静謐で得難い夜だった。

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by obinborn | 2015-12-04 01:18 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

11月7日の東京ローカル・ホンク

7日は東京ローカル・ホンク今年最後のワンマン・ライブ
を高円寺のJIROKICHIにて。彼らの多くの曲をまるで自分
の手足のように親しんできた自分だが、やはり一期一会の
演奏へと接するたび新鮮な気持に襲われる。地響きのよう
に轟く和声といい、複雑に入り組んだリズムといい、音楽
的にはとても複雑な語彙を用いているのに、それらをごく
シンプルで優しく聞かせるところに、キャリア20年の業を
思った。四人が奏でる楽器が自然に溶け合いつつ空間を満
たしていく。そこにロック・カルテット理想の姿を思わず
にはいられない。

日常のありふれた言葉を用いながら、町をスケッチし人々
の様相を切り取る。そんな木下弦ニのソングライティング
が、この夜も表情豊かな演奏によって命を吹き込まれた。
セットリストで言えば、「拡声器」「はじまりのうた」
「昼休み」「お手紙」といった楽曲がその最たるものだろ
う。アカペラで歌われた「サンダル鳴らしの名人」「夏み
かん」「夜明けまえ」の3曲も、ステージと会場との垣根を
取り払っていく親密さに満ちていた。また長尺ジャムとし
て終盤を飾った「社会のワレメちゃん」とそれに続いた新
たな名曲「身も蓋もない」では、今直面している厳しい現
実に対する個人の声が発せられていく。「身も蓋もない」
の歌詞を一部紹介しよう。「ブルーズなんてみんな借り物
の言葉さ/ロックンロールなんてただの習い事/今思い出す
のはあの日の子守歌/網戸から夜道に流れる笑い声/効き目
のある祈りの言葉を教えて欲しいけど」

もしジョン・レノンが今も生きていたら、きっと木下弦二
のような言葉を携えていただろう。弦二のように曇りのな
い目で世界のありようを見つめていただろう。

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by obinborn | 2015-11-08 01:44 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

10月16日のホンクと春日博文

16日は東京ローカル・ホンクwith春日博文のライブを高円寺の
JIROKICHIにて。現在は韓国を拠点に長く活動を続けるハッチ
が久し振りに帰国したこともあり、熱量漲るステージングとな
った。第一部はホンクが普段通りのオリジナル曲を演奏し、一
部の終盤及び第二部から春日を迎えてのブルーズ・セッション
が繰り広げられていく。BOOM BOOM、STOMY MONDAY BL
UES、GET OUT OF MY LIFE WOMAN、NOBODY LOVES YO
U WHEN 〜〜といった選曲自体はとくにマニアックなものでは
ないものの、全員音楽少年へと戻ったように笑顔でプレイする
姿が清々しい。ストラトキャスターとレスポールのゴールド・
トップを曲によって使い分け、ワウワウ・ペダルを踏みまくり
ながら澱みのないソロを繰り出していくハッチのギターは圧巻
だった。そんな彼と張り合うのではなく、自分らしい音色と語
彙で別のパートを織り成していく井上文貴と木下弦二のギター
もいいコントラストを描き出す。とくに春日のオリジナル・イ
ンスト「秋のブルーズ」のうっとりするようなコード進行と三
人でじわじわと織り成していくメインのフレーズには思わず溜
め息が出るほど。カルメン・マキ&OZ時代はもとより、仲井戸
麗市との荒れ狂うようなバトルを耳にしてきた筆者も思わず涙
してしまった。そんなハッチがまるでザ・バンドのような歌心
とプレイヤービリティに満ちたホンクの柔らかい音群に囲まれ
ていく。向こう見ずの年頃には求められなかった余韻をしっか
りと携えてゆく。その瞬間瞬間に愛おしさを感じずにはいられ
ない夜だった。
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by obinborn | 2015-10-17 00:50 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

9月19日の東京ローカル・ホンク

ツアー中日の東京ローカル・ホンクを19日は武蔵小山の
Againにて。約一ヶ月ぶりに接する彼らだったが、この日
もホンクの飾らない日本語のロックが心の底まで染み渡っ
た。ことさら聞き手を選ばない間口の広さが彼らにはあり、
日常をスケッチした歌詞にしろ、含蓄あるバンド・アンサ
ンブルにしろ、もはや他の追随を許さないといったところ
だ。「サンダル鳴らしの名人」のアカペラ・コーラスが終
わるとすぐさま「ハイウェイソング」になだれ込んでいく
序盤の展開からして、人力で出来ることのすべてを注ぎ込
んだ演奏にその道20年(実際はもっと)のキャリアが滲ん
でいた。終演後グループのソングライターである木下弦二
に、シリアスな世相が今後のホンクにどう影響していくか
を訊いてみたのだが、彼は直接的なメッセージソングは今
後も歌わないでしょう、と頼もしい答えが返ってきた。そ
の矜持は聞き手である私にもよく解る。何故なら彼らの楽
しい歌の背後に深い悲しみを感じるから。まるで影絵のよ
うなニュアンスをたっぷり含んだ「夏みかん」はどうだろ
う。生まれたての生命のことを親の目線で慈しんでいるよ
うなこの歌に、私たちは無邪気と喪失という両方の感情を
覚える。平易な言葉が多くの感情を伴って響き渡ってくる
さざ波のことを思う。

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by obinborn | 2015-09-20 00:16 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

8月1日のホンク

音の粒子がキラキラと輝きながらどこまでも弾け
飛んでいった。1日に高円寺のJIROKICHIで行われ
た東京ローカル・ホンクのワンマン・ライブはそん
な至福感に包まれる特別な夜となった。人力演奏に
よるロック・カルテットとして出来ることのすべて
を注ぎ込んだかのようなアンサンブルは精緻であり
ながら、ラフな匂いを失っていない点にも思わず肩
入れしたくなるほどで、この日会場に居合わせた方
々は特別な体験をされたと思う。お客さんたちの笑
顔が何よりもそれを物語っていた。「ハイウェイソ
ング」に始まり、本編を生命讃歌である「おいでお
いで」で終え、アンコールでは陽性のロード・ソン
グ「車のうた」とアカペラ・コーラスが詩情を醸し
出す「サンダル鳴らしの名人」とを束ねていく。そ
の約3時間の場面場面に今すぐ立ち戻りたいほどだ。

ホンクのソングライターである木下弦二の歌には「
身も蓋もない」や「社会のワレメちゃん」といった
現実世界へのシリアスな認識がある一方、「拡声器」
や「冬のお嬢さん」に代表される愛おしい日常のス
ケッチがある。ジョン・レノンやスティーヴィ・ワ
ンダーといった先人がそうであったように、弦二の
歌もまた社会性と日々の断片とが別個の歌として選
別されるのではなく、互いに響き合いながら、聞く
者たちの心の奥底に確かな足跡を残していく。

辛い時代だからといって、もっともらしく紋切り型
のメッセージを連呼すればいいというものではある
まい。事実私は今夜もホンクの楽しい歌に深い悲し
みを感じ、日々の描写の陰に蠢く人々の群像劇を思
った。

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by obinborn | 2015-08-02 00:59 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

7月4日のホンク

ロック・カルテットの極限のような起伏ある演奏が2時間半
たっぷり連なっていった。そんな東京ローカル・ホンクのワ
ンマン・ライブを4日は渋谷のB.Y.Gにて。「ヒコーキのう
た」から始まり「サンダル鳴らしの名人」に終わるまで、そ
の流れは歌の主人公と一日をともにしているような親しみの
感覚があり、普段着のままの言葉たちが豊かな音で彩られて
いく。はっぴいえんどから山の手文化の気取りをなくし、は
ちみつぱいやムーンライダーズほど鬱屈していないぜ、とい
ったホンクの音楽のあり様に今晩もまた胸が一杯になってし
まった。とくに序盤2曲め「ハイウェイ・ソング」の光沢あ
る音世界は一番良かった頃のグレイトフル・デッドを彷彿さ
せた。ホンクは過去の日本語ロックの歴史を背負っていると
同時に、自在闊達なギター・インプロの源泉をデッドに求め
たりもしてきたが、そんな洋邦楽を翻訳しながら自分たちな
らではの世界を築き上げた。そのことの価値を思わずにはい
られない。この夜会場にいた方々は本当に幸せだったと思う。

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by obinborn | 2015-07-04 23:32 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

13日のキックスとホンク

13日はザディコキックスと東京ローカル・ホンクのツーマン・
ライブを高円寺のJIROKICHIにて。この会場でもすっかりお馴
みになったホンクは、毎回彼らのお気に入りのバンドを招きな
がら楽しませてくれるが、今回は南ルイジアナ地方のクレオー
ル音楽に特化したキックスを迎えてのスペシャル・ナイトであ
り、満員のお客さんとともに約2時間半があっという間に過ぎ
ていった。まずはホンクが「サンダル鳴らしの名人」をアカペ
ラで披露してからキックスの面々を迎えるという演出が何とも
心憎い。

双方のバンドともずっと書きまくってきただけにそれぞれの美
点や音楽性については省略したいが、今回この夢のような組み
合わせが実現したことをまずは喜びたい! キックスはこの夜
BAD BAD WOMANでアコーディオンにエフェクターを施すなど
新生面が気持ち良く届く。バンドの要であろう中林由武による
まるでスティーヴ・ジョーダンばりのアプローチに度肝を抜か
れた。ホンクに関しては「拡声器」で繰り出していく井上文貴
の綺麗なトーンのスライド・ギターが息を呑むほど鮮烈だった。

両バンドともドラマーの力量が際立っている点も、ずっと飽き
ずに聞いていられる大きな要因であろう。キックスの諸星聖臣
といい、ホンクの田中クニオといい、けっして派手さはないも
のの、楽曲の中味を理解した強靭かつ柔らかいビートを叩き出
していく。その連続したグルーヴこそがまさに時間を忘れさせ
る妙薬なのだった。アンコール時での両者の共演はスタンダー
ド曲「テネシー・ワルツ」とホンクの持ち歌である「すんだこ
と」の2曲。それでも鳴り止まない歓声はやがて、ホンク永遠
のロード・ソング「車のうた」へと引き継がれていく。「ハイ
ウェイ・ソング」から始まったホンクのセットの起承転結とし
ても完璧なものだろう。

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by obinborn | 2015-06-14 01:15 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)