カテゴリ:rock'n roll( 359 )

 

ポールは歌う「あの頃に戻ろうよ」と

1日は都内で音楽仲間との懇親会を。いやあ〜楽しかった!
みんな歳を喰ったとはいえ、好きだった音楽に対して心を開
き、互いに語り合っていく。遠慮もなければ社交辞令もない。
そんな時間をたっぷり過ごした。とくにTさんが回す『LET
IT BE』が良かった。このアルバムこそは、ぼくがカーペンタ
ーズとともに洋楽への扉を開けてくれた作品だったから。今
でこそグリン・ジョンズが辛抱強く、この分裂寸前のカルテ
ットの演奏にテープを回していたことが解るけれど、当時の
ぼくは何の意味も解らず、ただひたすらこの作品を、正確に
はラジオを通して聞いていた。マットレスでバスドラのキッ
クを抑えたドラムスが好きだった。ハンブルグ時代のロック
ンロール曲One After 909を、虚飾なく演奏する姿が好きだっ
た。そしてポールはこう歌っていた「あの時代に戻ろうよ」
と。

ぼくが若かった頃はそんなGet Backの意味さえ、ないがしろ
にしていたと思う。傲慢だった。怠慢だった。人の気持に対
してあまりにも鈍かった。メンバー全員がまだ20代後半だっ
た頃、もうけっして元には戻れない関係を予感していた四人
の心模様を思うと、今も胸が張り裂けそうだ。

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by obinborn | 2016-05-02 01:30 | rock'n roll | Comments(0)  

私は明日もきっとその人の名を呼ぶだろう、ウィルコ!と。


川越のパブロック・ナイトは熱狂だった。私より遥かに若い
娘さんたちが、LPやシングルでパイレーツやブリンズリーや
エディ&ザ・ホットロッズなどを回していたのだから、思わ
ず頬が緩んでしまった(笑)やはりミッシェルガン・エレファ
ントの影響でこういう音楽に目覚めた世代なのだろうか?きっ
かけがどうであれ、パブロックが今なおこうして愛好されてい
る事実がもう嬉しくって。思えばシンプルなビート・ミュージ
ックやルーツ音楽は、とりたてて新しくない代りにけっして古
いわけでもない。そんな意味では間違いなく時代を超越したホ
ンモノというわけ。私が心から良いと思い、ずっと文章を書い
てきたパブロックは間違ってはいなかったのかも。

私の好きなパブロックの名盤は、勿論数え切れないほどある。
そのなかでも70年代中盤という時代背景を考慮しながら、あえ
て一枚を選ぶとしたら、私は何の迷いもなくドクター・フィー
ルグッドの『STUPIDITY』を差し出すだろう。まったくギミッ
クのない演奏と、キャンベイ・アイランド(ロンドンを挟んだ
対岸の工業とリゾートのエリア)出身の四人組ならではの、中
央に対して反抗するスピリットが見事なまでに捉えられている。
以前から音や映像で親しんできたリー・ブリローとウィルコ・
ジョンソンとの友情が感じられる良き日々だ。しかもその関係
が歳月とともに次第に綻びを見せ始め、崩壊していく様が切ない。

この『STUPIDITY』は何と76年の10月に英国のアルバム・チャ
ートで第一位に輝いた。産業化するばかりだったロック・カル
チャーに怒りを表明したこの若者たちが愛した音楽は、この盤
でカバーされた曲のシークエンスで言うと、チャック・ベリー、
ソロモン・バーク、ボ・ディドリー、ルーファス・トーマス、
コースターズ、サニーボーイ2世だった。今私が言いたいこと
はそれほど多くない。あえて言えばこうかな「ウィルコさん、
リー・ブリローが早死したぶん、黒色のテレキャスターをずっ
と鳴らし続けてください!」

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by obinborn | 2016-04-26 18:35 | rock'n roll | Comments(0)  

モンキービジネスの住人たちに

音楽出版に長らく携わっていると、いわゆる業界のイヤな部分
が見えてきてしまう。私が一番悪癖だなと思うのは対象アーテ
ィストのライブに足を運びもしないくせに、彼や彼女の新作に
”今が旬!”とばかり飛び付き誉めまくるというパターンで、こう
いう人達はもういい加減駆逐されて欲しい。こんなこと書くの
も私がある一定の音楽家たちのライブには誰にも負けないくら
い通っているからであり、たった一回それも”レコ発”のような
時のイベントに来ただけで、そのミュージシャンの全体像を解
った風に書かれると、ホント不愉快な気持になってしまう。む
ろん第一印象による客観的な音楽批評は必要なのかもしれない。
しかしながらそこに音楽する演者への理解がなければ、それは
単なるゴミ〜雑文であろう。そもそも私は業界的な馴れ合いが
好きでなく、そういう”どっぷりな”人達とはなるべく距離を置
いてきた。その哲学はごくシンプル。私はこう言いたい「好き
なら書くがいい。それほどでもないなら書くな!」

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by obinborn | 2016-04-18 02:20 | rock'n roll | Comments(0)  

かつて辿って来た以上の自由〜『サタニック・マジェスティーズ』

あまり報われることのなかった『ビトゥイーン・ザ・バトン
ズ』を経たストーンズの次なるステップが67年の暮れにリリ
ースされた『サタニック・マジェスティーズ』だった。『バ
トンズ』のベーシックな録音が西海岸のRCAスタジオでスタ
ートしつつも、最終的にはグリン・ジョンズのエンジニアリ
ングによってロンドンのオリンピック・スタジオで仕上げら
れたように、『サタニック』の録音もジョンズの元、同スタ
ジオで行われた。以降『ベガーズ』や『ブリード』といった
傑作がオリンピックで生まれたことを思えば、その基礎固め
となったアルバムという見方も出来るだろう。但し発売当時
の評価は『サージェント・ペパーズ』の物真似ではないか?
と散々たるものだった。ルーツ・ロック指向の筆者自身、長
いこと邪道だと思い込んでいたフシがある。しかし何度も丁
寧に聞き直すうちにそんな認識がいかに浅はかなものである
か解ってきたのだ。冒頭を飾るSing This All Togetherの主旋
律の最後にNow~と突如中近東的な音階が飛び出し、タブラ
が打ち鳴らされるエスニックな展開などまさに象徴的だろう。
アラブ~中近東的なアプローチとしては、Gomperのシタール
も聞き逃せない。ここら辺は同時期のジョージ・ハリソンや
ドノヴァンといった英国アーティストのみならず、デヴィッ
ド・リンドレーが在籍したサイケデリック・グループである
アメリカのカレイドスコープとも共振した”非西洋圏音楽”へ
の思いが聞き取れる。楽曲としてはやはりB面のShe's A Ra
inbowと2000 Light Years From Homeがとくに印象的だ。
89~90年のスティール・ホイールズ・ツアーで後者がリスト
に加わったことに狂喜された方も少なくないのでは?両者と
もにサマー・オブ・ラヴの時代ならではのカラフルな色合い
とスペーシーな広がりのあるサウンドが素晴しい。また隠れ
た人気曲としてはThe Lanternのフォーキーな味わい、Citad
elでのエッジの効いたギターも極上のトリップへと誘ってく
れる。前述したShe's A Rainbowは90年代にアップル・コン
ピュータのCMソングとして甦り、若いコに「誰の曲ですか
?」なんて尋ねられたっけ。その編曲はレッド・ツェッペリ
ン結成以前のジョン・ポール・ジョーンズであり、彼がミッ
キー・モストに雇われてドノヴァンの音楽を押し広げていた
ことも同時代ならではの符合であろう。全編でキラキラとし
たピアノを弾くニッキー・ホプキンスの存在も、以降暫くス
トーンズに欠かせないものとなった。英米で初めて曲目のシ
ークエンスが一致したこの『サタニック』について、ミック
・ジャガーはこんな風に回想している「ぼくたちがShe's A
RainbowとCitadelと2000 Light Years From Homeをレコー
ディングした時、かつてぼくたちが辿ってきた道のり以上の
フリーキーな精神を感じたのさ!」

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by obinborn | 2016-04-07 18:49 | rock'n roll | Comments(2)  

Rolling Stones /After-math

66年の4月にリリースされた『アフターマス』はこれまで
多くのカバー曲を取り上げてきたストーンズが、初めてジ
ャガー=リチャードによるオリジナル曲のみで構成したア
ルバムとして話題になった。グループとしては4作目のLP
であり、全曲がロスアンジェルスのRCAスタジオで録音さ
れている。これまでも渡米した際はチェスとともに愛用し
てきたRCAスタジオでの作業がより熟れてきた過程であろ
うか。同地のエンジニアであるデイヴ・ハッシンジャーが
裏ジャケットにストーンズとの出会いを記す序文を寄せて
いることも象徴的だ。何と言っても強調したいのは各種楽
器を操るブライアン・ジョーンズの活躍であり、珠玉のバ
ラードLady Janeでのダルシマーや、Under My Thumbでの
マリンバの響きがサイケデリアの時代を彩り、67年の12月
に発表された記念碑『サタニック・マジェスティーズ』を
予見させている。その一方ではFlight 505やIt's Not Easyと
いった従来のR&B〜ロックンロール、ブライアンのスライ
ド・ギターが冴えるブルージーなDoncha Bother Meといっ
た楽曲もあり、先進性とルーツ回帰との間で揺れ動く66年
ならではの彼らの姿を克明に捉えている。モータウン・サ
ウンドと同じように一拍目のスネアを強調したStupid Girl
と、68年の『ベガーズ・バンケット』にも通じるカントリ
ー・ブルーズ曲High And Dryを対比させても、チャートバ
スターと老ブルーズマンとのような取り合わせだ。またス
トーンズとしては初めて11分半を超える長尺ジャムとなっ
たGoin' Homeには当時台頭してきたフリートウッド・マッ
クやチキン・シャックといった英ブルーズ・ロックの影響
を感じずにはいられない。アルバム・タイトルのAFTERM
ATHとは文字通り「余波」という意味であり、まさに66年
というニューロック勃興期の空気に晒された彼らの姿が映
し出された貴重な作品集となった。本作からはMothers Little
Helperが66年の7月に全米8位、Lady Janeが同年8月に24
位へとチャート・イン。なお余談になるが、諦観に満ちたOut
Of Timeはハル・アシュビー監督の映画『帰郷〜Coming Ho
me』に使用され、ヴェトナム戦争に翻弄される主人公たち
の気持を汲み取っていた。

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by obinborn | 2016-04-07 07:35 | rock'n roll | Comments(2)  

3月27日の佐野元春&コヨーテ・グランド・ロッケストラ

27日は佐野元春&コヨーテ・グランド・ロッケストラを有楽町
の国際フォーラムにて。昨年暮れから始まったデビュー35周年
のアニヴァーサリー・ツアーも本日でいよいよ千秋楽となった
が、御祝儀っぽさを排し、音楽そのものに多くを語らせながら
テンポ良く曲を連ねていく3時間半に圧倒された。近年はシン
プルなギター・アンサンブルに特化したコヨーテ・バンドで研
ぎ澄まされた歌と演奏を聞かせてきた彼らだが、Dr.kyOnと渡
辺シュンスケによるツイン・キーボードと、久し振りにホーン
ズを帯同した広がりのある今回のロッケストラ編成も味わい深
い。あの甘酸っぱい「Sugar Time」からスタートしつつも、け
っしてノスタルジックな罠に陥ることなく、最新作『Blood Mo
on』やひとつ前の『Zooey』といった傑作アルバムから幾つか
をど真ん中に束ねるなど、佐野のアーティスティックなこだわ
りがしっかりと伝わってきた。そんな彼の態度は警告に満ちた
あの不吉な「国のための準備」をあえて終盤に持ってきたほど
の念の入れようだ。

思えば佐野は誰も成し得ていない文脈で日本のロックを開拓し
てきた先駆者だった。彼が登場する80年の3月までには洋楽の
コピーに必死だったロックや、いささか自己憐憫が過ぎるシン
ガー・ソングライターの”私小説”はあったものの、佐野ほど「
彼」や「彼女」といった第三人称のペルソナを設定しながら詩
を温め、気品あるメロディへと昇華させていった人はいない。
しかもそんな初期の無邪気な群像は歳月を経て姿を変えながら、
一児の父親が墓参りをする「希望」や、失意に満ちた「紅い月」
といった21世紀になってからの楽曲に紛れ込んでいる。きっと
敏感な感性のリスナーほど、佐野のそんな作家性に敬意を払い
自身を投影させているのだろう。そう、「アンジェリーナ」の
成長した姿が「ジャスミン・ガール」であるように。マーヴィ
ン・ゲイの悲しげなソウルに耳を澄ませていたかつての青年が、
宛もなく冬の空を見上げながら「ポーラスタア」を歌っている
孤独なきみのように。

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by obinborn | 2016-03-27 23:20 | rock'n roll | Comments(2)  

テデースキ・トラックス・バンドの新作『LET ME GET BY』を聞いた

ここのところずっと聞きまくっているのがテデースキ・トラッ
クス・バンドの新作『Let Me Get By』だ。グループにとって
は3作めのスタジオ・アルバムで、ライブ盤を含めれば通算4
枚めとなる作品だが、ホーンズやツイン・ドラムスそしてコー
ラス隊を含めた10人編成という大所帯ならではのダイナミズム
溢れる演奏に聞き惚れてしまう。こうした大らかなグルーヴに
アメリカのロックが培ってきた様々なエレメントを発見するヴ
ェテラン・リスナーも少なくないだろう。夫婦をフロントに押
し出しているという点ではかつてのデラニー&ボニー&フレン
ズを、ソウル〜ファンクへと針が振れた時にはスライ&ザ・フ
ァミリー・ストーンの家族を思い起こさせるTTB。彼らこそは
現在最高のロック・バンドと言っても過言ではあるまい。昨年
はかつてのマッドドッグス&ザ・イングリッシュメンを再現す
るR&Bレヴューを行い、全米各地で話題を振り撒いたことが記
憶に新しい。

結成当時はデレク・トラックスのギターだけが注目されるキラ
イがあったとは思う。デュエイン・オールマンからスティーヴ
ィ・レイ・ヴォーンまで、ことさらギター英雄ばかりが持て囃
されるのはブルーズの世界でもロックのフィールドでも同じこ
とだ。ただTTBが奏でる音楽をトータルに見渡せば、むしろス
ーザン・テデースキの歌に寄り添いながら、ここぞという場面
でスライド・ギターを飛翔させていくデレクの慎ましい姿が見
えてくる。いわばソング・オリエンテッドな部分と、90年代以
降のアメリカで大きな潮流となったジャム・バンドならではの
自由闊達な世界が見事なまでの超克を示した。そんなところに
彼らの”古くて新しい”音楽の秘密があるのだろう。

先ほど大らかなノリを感じると筆者は記したけれど、その背後
にはむろんメンバー10人全員による精緻なスケッチがある。そ
れらの呼吸感、各自が自在に押し引きしつつそれぞれの役割を
果たしていることを感じ取りたい。フロリダはジャクソンヴィ
ルにあるTTBのスワンプ・ラガ・スタジオで行われたレコーデ
ィングはほぼ一発録音だったと伝えられている。それらを名手
ボブ・ラドウィグが克明にマスタリングした。そのことの価値
を思わずにいられない。ジャケットに描かれた飛翔する鳥の姿
が、まさにテデースキ・トラックス・バンドの現在を捉えてい
る。

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by obinborn | 2016-03-16 18:39 | rock'n roll | Comments(3)  

佐野元春『GRASS』

今夜の元春レディオショウで「君を失いそうさ」を聞けたので、
思わず引っ張り出してきたのが『GRASS』アルバムだった。
「君を失いそうさ」の新しいミックス・ヴァージョンを含む本
作は、2000年の11月にリリースされた佐野元春の”裏ベスト盤”
であり、ライブではめったに演奏されない曲を中心に彼自身が
選曲し新たなミックスを試みた。今晩の放送では「99年には
CDがかつてほど売れず、音楽業界が低迷し始めた。ぼくにとっ
ては”驚くに値しない”ことだったけど、レコード会社の仲間たち
が次第に元気を失くしていくのを見るのは辛かった」との旨に
留めていた佐野だが、彼とエピック・ソニーとの関係は悪化の
の一途を辿っていった。「レコーディングの最中に会社の重役
がやって来てこう言うんだ”もっとSomedayのようなヒット曲
を書いてよ”」エピックでの最終作となった『STONES AND E
GGS』の制作現場では、実際そんな険悪な空気が漂っていたら
しい。そんな混沌とした状況のなかでリリースされた『GRAS
S』はどうだろう。これほど佐野の輝かしいキャリアに背くよ
うなダウナーな作品集も珍しい。「欲望」「ジュジュ」といっ
た比較的ポピュラーな楽曲でさえ、オリジナル・ヴァージョン
にあった高揚する気持ちが、断末魔のように消されているくら
いだ。

それでもこの時期の佐野はあえて羽根を休め、来るべき時代へ
と備えていたのだろう。その様子は厳しい季節に冬眠する野性
の動物を思わせる。『GRASS』アルバムは「モリソンは朝、
空港で」をもって幕を閉じる。しかし、どうか最後まで聞いて
欲しい。そこには「サンチャイルドは僕の友達」が新しい産毛
のように待ち構えているから。その暖色のトーンが長い冬を経
て、再びザ・ホーボー・キング・バンドを携えた04年の傑作『
The Sun』へと結晶していく。メジャー会社のエピック・ソニ
ーから、佐野が自ら興した自主独立のインディ・レーベル、デ
イジー・ミュージックへ。その劇的な変革期を捉えた中間報告
として、ぼくはこの『GRASS』を秘めやかに愛さずにはいられ
ない。

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by obinborn | 2016-03-16 01:37 | rock'n roll | Comments(2)  

佐野元春『Back To The Street』

渋谷のブラックホークに関してはいつも愛憎半ばといった感情
を抱いてしまう。きっと深入りした訳でもまったく行かなかっ
たわけでもないという私の個人史故の気持だろう。70年代に
百軒店の一角にひっそりと佇んでいたこのロック喫茶のポリシ
ーは、ラジオでは流れないマイナーな音楽を静かに聞くという
ものであり、具体的には英米のSSW、スワンプ・ロック、そし
てブリテン諸島のトラッド音楽へと深く分け入っていった。店
主である松平維秋氏の嗜好をダイレクトに反映したその傾向は、
彼が店を辞した77年以降は徐々に変化していったが、今もホー
クと言って連想されるのは、そうしたメインストリームとはな
り得ない”もうひとつのロック”だった。

コーヒーが不味かったとか、店員の女の子が無愛想であったと
か、肝心の松平さんが頑固一徹だったとかを今ここで挙げつら
うことはしたくない。私もホークならではの審美眼に影響され
随分多くのレコードを買い求めたし、当時店内では話せなかっ
たものの、歳月を経た後、ホーク出身の人達たちと出会うこと
にもなった。ついでに言えば97年の拙書『Songs』にブラック
ホークの影を読み取った方もいらっしゃった。そういう意味で
は私もホーク・チルドレンの末席にいる一人なのかもしれない。
時代に流されないことの大切さ。それを教わった方々は何も私
だけではあるまい。

よく70年代は老成した時代だったと指摘される。自分のなかの
若さを恨めしく思い、達観や諦観を決め込む風潮があった。例
えばはっぴいえんどの「春よ来い」に濃厚に立ち込める屈折は
どうだろうか。あがた森魚の「大寒町」に聞き出せる覚めた感
覚はどうだろうか。ホークの固い椅子に座りながらそれらに安
堵を覚えるのに反して、店から出て帰りの坂道を下る頃にはも
う一人がこう囁いていた「このままでいいのかい?」と。恐ら
くどっぷりとブラックホークの渋い世界に浸るには若過ぎたの
だと思う。そんな煩悶がしばらく続いていたある日、私はまる
で啓示のように一人の音楽家と出会った。忘れもしない80年の
春。それが佐野元春だった。言葉は生き生きと背景から抜け出
し、歌の主人公たちは今にも通りへと駆け出して行きそうだっ
た。そんな動き出す言葉とビートとの超克を耳にしたのは、生
まれて初めての鮮烈な体験だった。

だから「ブラックホークの99枚」に続く一枚を選ぶとしたら、
私は何ら躊躇うことなく、彼のデビュー・アルバム『Back To
The Street』をそっと差し出すことだろう。

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by obinborn | 2016-03-15 17:27 | rock'n roll | Comments(0)  

ニール・ヤング『今宵その夜』

ニール・ヤングの75年作『Tonight the Night』はドラッグで
命を落としてしまった彼のローディだったブルース・フェリ
ーと、クレイジー・ホースのギタリストだったダニー・ウィ
ットンに捧げられたアルバムだ。何でもメンバー全員がテキ
ーラを痛飲しながら夜中に始めたセッションをそのまま録音
したらしく、演奏はかなりラフで編曲が練られているわけで
もないが、それ故に生々しい感情の襞が伝わってくる。よく
こんなレコーディングをメジャー会社のリプリーズがO.Kし
たものだと思う。マーケッティングが隅々にまで行き亘った
現在ではおよそ考えられない光景だが、ぼくは『渚にて』と
並んでニールのなかでは最も好きな作品だ。ストーンズ「レ
ディ・ジェーン」のフレーズを盗んだと告白する「ボロード
・チューン」でのピアノの弾き語り、ニルス・ロフグレンが
蒼白い炎のようなギターで貢献する「スピーキン・アウト」、
ダニーがヴォーカルを取ったクレイジー・ホースのライブを
収録した「カモン・ベイビー・レッツ・ゴー・ダウンタウン」
など忘れ難い曲が多い。なかでも”ハイスクールの頃のように
裸足になって川でパシャパシャ泳ぎたい。小銭を鳴らしなが
らね”とニールが本当に泣きながら歌う「メロー・マイ・マイ
ンド」には胸を突かれた。また”その疲れた眼をもう一度開け
ておくれ”と懇願する「タイアード・アイズ」も聞く者を揺さ
ぶる鎮魂歌である。いずれも歌いたいことがあるから歌うと
いう態度に徹しているから音楽に嘘がないのだろう。ここか
らは個人的なことになるが、ぼくも何人かの友人や知人が対
岸に渡ってしまう現実に幾度か晒されてきた。そんな場面は
残酷なことだが、これからは加齢とともに増えてくるに違い
ない。またいつ自分が死の淵に立つのかもわからない。それ
はニールの曲を借りれば”ギターの弦のように細い世界”(W
orld on a String)なのかもしれない。そんなことを考えなが
ら二度目のA面に針を落としている。何だか今夜は眠れそう
にない。

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by obinborn | 2016-02-25 23:07 | rock'n roll | Comments(0)