カテゴリ:rock'n roll( 364 )

 

3月27日の佐野元春&コヨーテ・グランド・ロッケストラ

27日は佐野元春&コヨーテ・グランド・ロッケストラを有楽町
の国際フォーラムにて。昨年暮れから始まったデビュー35周年
のアニヴァーサリー・ツアーも本日でいよいよ千秋楽となった
が、御祝儀っぽさを排し、音楽そのものに多くを語らせながら
テンポ良く曲を連ねていく3時間半に圧倒された。近年はシン
プルなギター・アンサンブルに特化したコヨーテ・バンドで研
ぎ澄まされた歌と演奏を聞かせてきた彼らだが、Dr.kyOnと渡
辺シュンスケによるツイン・キーボードと、久し振りにホーン
ズを帯同した広がりのある今回のロッケストラ編成も味わい深
い。あの甘酸っぱい「Sugar Time」からスタートしつつも、け
っしてノスタルジックな罠に陥ることなく、最新作『Blood Mo
on』やひとつ前の『Zooey』といった傑作アルバムから幾つか
をど真ん中に束ねるなど、佐野のアーティスティックなこだわ
りがしっかりと伝わってきた。そんな彼の態度は警告に満ちた
あの不吉な「国のための準備」をあえて終盤に持ってきたほど
の念の入れようだ。

思えば佐野は誰も成し得ていない文脈で日本のロックを開拓し
てきた先駆者だった。彼が登場する80年の3月までには洋楽の
コピーに必死だったロックや、いささか自己憐憫が過ぎるシン
ガー・ソングライターの”私小説”はあったものの、佐野ほど「
彼」や「彼女」といった第三人称のペルソナを設定しながら詩
を温め、気品あるメロディへと昇華させていった人はいない。
しかもそんな初期の無邪気な群像は歳月を経て姿を変えながら、
一児の父親が墓参りをする「希望」や、失意に満ちた「紅い月」
といった21世紀になってからの楽曲に紛れ込んでいる。きっと
敏感な感性のリスナーほど、佐野のそんな作家性に敬意を払い
自身を投影させているのだろう。そう、「アンジェリーナ」の
成長した姿が「ジャスミン・ガール」であるように。マーヴィ
ン・ゲイの悲しげなソウルに耳を澄ませていたかつての青年が、
宛もなく冬の空を見上げながら「ポーラスタア」を歌っている
孤独なきみのように。

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by obinborn | 2016-03-27 23:20 | rock'n roll | Comments(2)  

テデースキ・トラックス・バンドの新作『LET ME GET BY』を聞いた

ここのところずっと聞きまくっているのがテデースキ・トラッ
クス・バンドの新作『Let Me Get By』だ。グループにとって
は3作めのスタジオ・アルバムで、ライブ盤を含めれば通算4
枚めとなる作品だが、ホーンズやツイン・ドラムスそしてコー
ラス隊を含めた10人編成という大所帯ならではのダイナミズム
溢れる演奏に聞き惚れてしまう。こうした大らかなグルーヴに
アメリカのロックが培ってきた様々なエレメントを発見するヴ
ェテラン・リスナーも少なくないだろう。夫婦をフロントに押
し出しているという点ではかつてのデラニー&ボニー&フレン
ズを、ソウル〜ファンクへと針が振れた時にはスライ&ザ・フ
ァミリー・ストーンの家族を思い起こさせるTTB。彼らこそは
現在最高のロック・バンドと言っても過言ではあるまい。昨年
はかつてのマッドドッグス&ザ・イングリッシュメンを再現す
るR&Bレヴューを行い、全米各地で話題を振り撒いたことが記
憶に新しい。

結成当時はデレク・トラックスのギターだけが注目されるキラ
イがあったとは思う。デュエイン・オールマンからスティーヴ
ィ・レイ・ヴォーンまで、ことさらギター英雄ばかりが持て囃
されるのはブルーズの世界でもロックのフィールドでも同じこ
とだ。ただTTBが奏でる音楽をトータルに見渡せば、むしろス
ーザン・テデースキの歌に寄り添いながら、ここぞという場面
でスライド・ギターを飛翔させていくデレクの慎ましい姿が見
えてくる。いわばソング・オリエンテッドな部分と、90年代以
降のアメリカで大きな潮流となったジャム・バンドならではの
自由闊達な世界が見事なまでの超克を示した。そんなところに
彼らの”古くて新しい”音楽の秘密があるのだろう。

先ほど大らかなノリを感じると筆者は記したけれど、その背後
にはむろんメンバー10人全員による精緻なスケッチがある。そ
れらの呼吸感、各自が自在に押し引きしつつそれぞれの役割を
果たしていることを感じ取りたい。フロリダはジャクソンヴィ
ルにあるTTBのスワンプ・ラガ・スタジオで行われたレコーデ
ィングはほぼ一発録音だったと伝えられている。それらを名手
ボブ・ラドウィグが克明にマスタリングした。そのことの価値
を思わずにいられない。ジャケットに描かれた飛翔する鳥の姿
が、まさにテデースキ・トラックス・バンドの現在を捉えてい
る。

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by obinborn | 2016-03-16 18:39 | rock'n roll | Comments(3)  

佐野元春『GRASS』

今夜の元春レディオショウで「君を失いそうさ」を聞けたので、
思わず引っ張り出してきたのが『GRASS』アルバムだった。
「君を失いそうさ」の新しいミックス・ヴァージョンを含む本
作は、2000年の11月にリリースされた佐野元春の”裏ベスト盤”
であり、ライブではめったに演奏されない曲を中心に彼自身が
選曲し新たなミックスを試みた。今晩の放送では「99年には
CDがかつてほど売れず、音楽業界が低迷し始めた。ぼくにとっ
ては”驚くに値しない”ことだったけど、レコード会社の仲間たち
が次第に元気を失くしていくのを見るのは辛かった」との旨に
留めていた佐野だが、彼とエピック・ソニーとの関係は悪化の
の一途を辿っていった。「レコーディングの最中に会社の重役
がやって来てこう言うんだ”もっとSomedayのようなヒット曲
を書いてよ”」エピックでの最終作となった『STONES AND E
GGS』の制作現場では、実際そんな険悪な空気が漂っていたら
しい。そんな混沌とした状況のなかでリリースされた『GRAS
S』はどうだろう。これほど佐野の輝かしいキャリアに背くよ
うなダウナーな作品集も珍しい。「欲望」「ジュジュ」といっ
た比較的ポピュラーな楽曲でさえ、オリジナル・ヴァージョン
にあった高揚する気持ちが、断末魔のように消されているくら
いだ。

それでもこの時期の佐野はあえて羽根を休め、来るべき時代へ
と備えていたのだろう。その様子は厳しい季節に冬眠する野性
の動物を思わせる。『GRASS』アルバムは「モリソンは朝、
空港で」をもって幕を閉じる。しかし、どうか最後まで聞いて
欲しい。そこには「サンチャイルドは僕の友達」が新しい産毛
のように待ち構えているから。その暖色のトーンが長い冬を経
て、再びザ・ホーボー・キング・バンドを携えた04年の傑作『
The Sun』へと結晶していく。メジャー会社のエピック・ソニ
ーから、佐野が自ら興した自主独立のインディ・レーベル、デ
イジー・ミュージックへ。その劇的な変革期を捉えた中間報告
として、ぼくはこの『GRASS』を秘めやかに愛さずにはいられ
ない。

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by obinborn | 2016-03-16 01:37 | rock'n roll | Comments(2)  

佐野元春『Back To The Street』

渋谷のブラックホークに関してはいつも愛憎半ばといった感情
を抱いてしまう。きっと深入りした訳でもまったく行かなかっ
たわけでもないという私の個人史故の気持だろう。70年代に
百軒店の一角にひっそりと佇んでいたこのロック喫茶のポリシ
ーは、ラジオでは流れないマイナーな音楽を静かに聞くという
ものであり、具体的には英米のSSW、スワンプ・ロック、そし
てブリテン諸島のトラッド音楽へと深く分け入っていった。店
主である松平維秋氏の嗜好をダイレクトに反映したその傾向は、
彼が店を辞した77年以降は徐々に変化していったが、今もホー
クと言って連想されるのは、そうしたメインストリームとはな
り得ない”もうひとつのロック”だった。

コーヒーが不味かったとか、店員の女の子が無愛想であったと
か、肝心の松平さんが頑固一徹だったとかを今ここで挙げつら
うことはしたくない。私もホークならではの審美眼に影響され
随分多くのレコードを買い求めたし、当時店内では話せなかっ
たものの、歳月を経た後、ホーク出身の人達たちと出会うこと
にもなった。ついでに言えば97年の拙書『Songs』にブラック
ホークの影を読み取った方もいらっしゃった。そういう意味で
は私もホーク・チルドレンの末席にいる一人なのかもしれない。
時代に流されないことの大切さ。それを教わった方々は何も私
だけではあるまい。

よく70年代は老成した時代だったと指摘される。自分のなかの
若さを恨めしく思い、達観や諦観を決め込む風潮があった。例
えばはっぴいえんどの「春よ来い」に濃厚に立ち込める屈折は
どうだろうか。あがた森魚の「大寒町」に聞き出せる覚めた感
覚はどうだろうか。ホークの固い椅子に座りながらそれらに安
堵を覚えるのに反して、店から出て帰りの坂道を下る頃にはも
う一人がこう囁いていた「このままでいいのかい?」と。恐ら
くどっぷりとブラックホークの渋い世界に浸るには若過ぎたの
だと思う。そんな煩悶がしばらく続いていたある日、私はまる
で啓示のように一人の音楽家と出会った。忘れもしない80年の
春。それが佐野元春だった。言葉は生き生きと背景から抜け出
し、歌の主人公たちは今にも通りへと駆け出して行きそうだっ
た。そんな動き出す言葉とビートとの超克を耳にしたのは、生
まれて初めての鮮烈な体験だった。

だから「ブラックホークの99枚」に続く一枚を選ぶとしたら、
私は何ら躊躇うことなく、彼のデビュー・アルバム『Back To
The Street』をそっと差し出すことだろう。

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by obinborn | 2016-03-15 17:27 | rock'n roll | Comments(0)  

ニール・ヤング『今宵その夜』

ニール・ヤングの75年作『Tonight the Night』はドラッグで
命を落としてしまった彼のローディだったブルース・フェリ
ーと、クレイジー・ホースのギタリストだったダニー・ウィ
ットンに捧げられたアルバムだ。何でもメンバー全員がテキ
ーラを痛飲しながら夜中に始めたセッションをそのまま録音
したらしく、演奏はかなりラフで編曲が練られているわけで
もないが、それ故に生々しい感情の襞が伝わってくる。よく
こんなレコーディングをメジャー会社のリプリーズがO.Kし
たものだと思う。マーケッティングが隅々にまで行き亘った
現在ではおよそ考えられない光景だが、ぼくは『渚にて』と
並んでニールのなかでは最も好きな作品だ。ストーンズ「レ
ディ・ジェーン」のフレーズを盗んだと告白する「ボロード
・チューン」でのピアノの弾き語り、ニルス・ロフグレンが
蒼白い炎のようなギターで貢献する「スピーキン・アウト」、
ダニーがヴォーカルを取ったクレイジー・ホースのライブを
収録した「カモン・ベイビー・レッツ・ゴー・ダウンタウン」
など忘れ難い曲が多い。なかでも”ハイスクールの頃のように
裸足になって川でパシャパシャ泳ぎたい。小銭を鳴らしなが
らね”とニールが本当に泣きながら歌う「メロー・マイ・マイ
ンド」には胸を突かれた。また”その疲れた眼をもう一度開け
ておくれ”と懇願する「タイアード・アイズ」も聞く者を揺さ
ぶる鎮魂歌である。いずれも歌いたいことがあるから歌うと
いう態度に徹しているから音楽に嘘がないのだろう。ここか
らは個人的なことになるが、ぼくも何人かの友人や知人が対
岸に渡ってしまう現実に幾度か晒されてきた。そんな場面は
残酷なことだが、これからは加齢とともに増えてくるに違い
ない。またいつ自分が死の淵に立つのかもわからない。それ
はニールの曲を借りれば”ギターの弦のように細い世界”(W
orld on a String)なのかもしれない。そんなことを考えなが
ら二度目のA面に針を落としている。何だか今夜は眠れそう
にない。

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by obinborn | 2016-02-25 23:07 | rock'n roll | Comments(0)  

抵抗の歌


ぼくがWay of Life(人生の選択)を巡って出入り禁止〜お前
は二度とウチに来るな!を伝えたのは意外にもこれまでわず
か一人だけ。彼とは二度ほどSNSでモメた。まず一つめは数
年前の冬に山梨県が大雪で閉じ込められていた時の最高指令
官の動きについてだった。彼がはっきりと首相を揶揄したこ
とに対し、安倍ちゃんだって赤坂で鮨を食べる権利はあるだ
ろうとぼくが反論した。安倍首相なんてちっとも好きではな
いけど、皆で寄って集って批判することに違和を感じたまで
だった。最高の司令官なら現地で雪かきすれば?と戯画で伝
えるポスターに喝采を叫ぶ連中にも付和雷同的な不気味さを
感じた。二つめは「いいね!」のあり方に対する認識の違い
だった。自分が参加するわけでもないライブやイベントにや
たらいいね!しまくる彼の存在には当時から軽薄さを感じて
いたのでその旨を本人に伝えた。彼は応援という気持を込め
ているらしいが、ぼくの場合は(とくに日本人通しだと)
相手が期待してしまうぶん、無闇やたらにいいね!を押せな
いのだった。いや、本当に応援してるんだったら黙ってその
アーティストのライブに行くのが一番いいと思う。むしろぼ
くは行けないライブに「いいね!」してしまい激しく後悔し
たことがあるくらいだ。こればかりは感性の違いだろう。
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by obinborn | 2016-02-24 18:17 | rock'n roll | Comments(0)  

個人的な歌が世界を変革する

昨夜NHKで『60年代:若者たちの反乱』を観た。キューバ革命、
東西ベルリンの隔離、ヴェトナム戦争、ソ連のチェコへの介入、
中国の文化大革命などの史実をフィルムで追ったもので、コマ
切れの感は否めなかったものの、それでも当時を知らない世代
には十分衝撃的だったろう。わけてもデヴィッド・ボウイが西
独でのライブで「ヒーローズ」を歌ったシーンは圧巻だった。
「ぼくたちは一日だけ英雄になれる/世界を繋ぐものが何一つな
くても/ぼくは王できみは女王だ/銃弾が空を飛び交うなか/恋人
たちは永遠のキスをする」と歌われるこの曲が、東独の若者た
ちにも伝わり、これがベルリンの壁を打ち砕く原動力になった
とされている。但しボウイ自身はこの曲の政治的意図を否定す
るばかりか、当時ドイツ人の女性と不倫関係にあった友人のた
めに作った歌だと告白している。そんな禁断の愛を歌った歌が
ベルリンの壁を壊すきっかけになったのは、ひとえに歌の解釈
がどこまでも自由だということを証明する。ぼくがいつもプロ
テストソングの限界(と音楽的語彙の貧しさ)を指摘するのは
まさにそういうことに他ならない。番組には勿論パリの五月革
命も出てきた。そんな政治の季節に行う映画祭なんかに意味が
あるのか?と煩悶するゴダールとトリュフォーの姿も少しだけ
観られたのは収穫だった。但し、以降どんどん政治色を強めて
いくゴダールに対し、トリュフォーの場合はもっと古典的な映
像美やストーリー性を重視していたようで、このパリ革命は奇
しくもそんな二人の映画青年を分け隔てる事件となってしまっ
た。こんな点にもアートと政治を巡る難しさが露呈していると
思い、胸が痛くなった。


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by obinborn | 2016-02-22 10:04 | rock'n roll | Comments(0)  

吉田拓郎の肖像

昨夜(12日)の『報道ステーション』に出演した吉田拓郎は
立派だった。70歳を迎えた自分のことを偽らず率直に語るそ
の姿に好感を抱いた。とくに印象的だったのは古館アナウン
サーが”歌謡曲とフォークとの対立軸"にハナシを向けた時、
拓郎があっけんからんと「今思えばボクはフォークの側ではな
かったと思うんです。ナベプロからデビューしてジュリーのよ
うになるほうが相応しかったのかもしれません」といった旨を
語っていたこと。もともと彼はもっともらしい言説が大嫌いな
人だった。トライブ(部族)やセクト(派閥)の窮屈さに異を
唱え、”汚いジーパンを履いて歌う”フォークソングの世界を抜
け出し「襟裳岬」や「シンシア」で歌謡曲にアプローチした。
そんな拓郎に対するフォーク原理主義者たちの批判は厳しく続
いたが、彼は何より自分に正直であることを選択した。元々は
故郷の広島でバンドを組み、レイ・チャールズなどのR&Bを
歌っていた人である。そんじょそこらのにわかフォーキーたち
とは音楽の成り立ちが違う。また岡本おさみに作詞を担当させ
た「祭りの後」に関しては、昨夜の番組で「とても20代が背負
える歌ではなかったね」と現在の心情を吐露した。そんな点に
ぼくは拓郎の人間味を感じずにはいられない。そのひとつひと
つの発言に、ユーモアの感情があったこともポイントだ。様々
な誹謗中傷や人気歌手故のねたみやそねみを受けながら、けっ
して屈しなかった吉田拓郎という肖像。いつかの彼にこんな
歌詞があった「自由を語るな、不自由な顔で」あるいは「自然
を感じるなんて、何て不自然なんだろう」イデオロギーという
悪弊にいち早く”アカンベ〜”とばかり背を向け、やっと一人に
なった自分に勝利しながらも群衆とともにいる喜びを願い、
もっと自由であっていいじゃないかと問い掛けたかつての青年。
それらは今もぼくを震わせ、反抗という血潮をこの身体にそっと
打ち付けてゆく。

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by obinborn | 2016-02-14 00:16 | rock'n roll | Comments(0)  

ポール・カントナーと「木の舟」

ポール・カントナーの訃報に接して反射的に思い浮かべたのが
Wooden Ships(木の舟)だった。ジェファーソン・エアプレイ
ンが69年にリリースしたアルバム『ヴォランティアーズ』に
収録されたこの曲は終末思想を歌ったもので、この汚染された
地球を離れ僕たちは木の舟で旅立とうといった内容になってい
る。いかにも当時のヒッピーらしい願望が夢幻的なサウンドと
もに奏でられ、カントナー、スリック、バリンと入れ替わるヴ
ォーカルも曲の表情を豊かにしたが、選民的な現実逃避ではな
いか?という批判もあり、ジャクソン・ブラウンが同曲に反発
して「For Everyman」を書き上げたことは広く知られている。
実際筆者がジャクソンにインタヴューした時も、彼はヒッピー
的なコミュニズムに懐疑の念を抱き、もっと現実を見つめなき
ゃいけない、しっかり社会に目を向けよう!とひどく真剣に語
っていた。カントナー、クロスビー、スティルスの三人が共作
したこの「木の舟」は一般的にはCS&Nのヴァージョンのほう
で親しまれているだろうか。少し気になって『CS&N』のアル
バムを取り出してみたら、カントナーの名前がクレジットされ
ず、単にクロスビー=スティルスのみの表記になっていて驚い
てしまった。些細なことかもしれないが、こんな点にもヒッピ
ー的な夢と音楽ビジネスという現実との落差が現われているよ
うで心が痛い。個人的にはジェファーソン自体よりは離脱組で
あるキャサディとコウコネンによるホット・ツナに肩入れして
いたのでカントナーはあまり意識していなかった。それでもス
リックとともにジェファーソンを旗揚げしたカントナーの退場
に寂しさを覚えずにはいられない。筆者がリアルタイムで接し
たのはスターシップと改名してから。スターシップに関しては
どんどん産業ロック的な音作りになってしまったが、75年の
『レッド・オクトパス』や76年の『星船〜スピットファイア』
辺りはまだ往年のシスコ・サウンドらしい自由な気風、おおら
かなノリ、音楽で結ばれた友情のようなものがあり、本当によ
く聞いたものだった。そうそう、映画『オルタモントの悲劇』
で暴徒化するヘルス・エンジェルズを必死になだめようとして
いたのはカントナーではなかっただろうか。そんなことを突然
思い出したら涙がこぼれてきた。


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by obinborn | 2016-01-29 15:06 | rock'n roll | Comments(0)  

追悼:グレン・フライ

「最初にアラバマを訪れたのは71年。ぼくはエディ・ヒントン
からギターの手ほどきを受けた。それはボビー・ウーマック風
の中国的リックと呼ばれるフレーズだった。尊厳溢れる体験だ
ったよ。だからこの曲ではぼく自身がそのギターを弾いてみた」
グレン・フライのI Found Somebodyにはそんなエピソードが
添えられている。彼が現在来日中のジャック・テンプチンとと
もに書き上げた曲だ。そのフライが18日合併症のためニューヨ
ークの病院で亡くなった。67歳だった。

デトロイトに生まれた彼はいつしかロスアンジェルスを目指し、
ジョン・デヴィッド・サウザーとともにロングブランチ・ペニ
ーホイッスルを69年に結成。これがプロとしての第一歩だった。
日々トゥルヴァドール・クラブなどで切磋琢磨していたフライ
はやがてドン・ヘンリーと出会い、彼らはリンダ・ロンシュタ
ドのバック・バンドを務めながら何とか食い繋いだ。やがて互
いを刺激し合う仲となった二人はソングライティングのコンビ
を組む。これがイーグルズの始まりだった。以降彼らが70年
代の西海岸ロックを支える大きな潮流となったことは言うまで
もないだろう。楽天的なヒッピーを気取ったTake It Easyや、
恋人と一夜を過ごすPeaceful Easy Feelingといった初期の代表
曲に、青年期ならではの不安や焦燥が同居していたことを覚え
ておきたい。そんな部分に人々は共感を寄せていった。かつて
ヘンリーは「CSN&Yが俺たち唯一の希望だった」と述懐してい
たが、CSN&Yが解散してからのカリフォルニアのロック・シー
ンを牽引したのはイーグルズに他ならなかった。73年のセカン
ド『ならず者』を西部劇仕立てのコンセプト・アルバムにした
ことも話題になった。作品では無法者ドゥーリン・ダルトンの
生涯が描かれていたが、それがロック・スターという危い職業
に就いている彼らと二重写しになっていたことに抜き差しなら
ない意味があった。また76年作『ホテル・カリフォルニア』の
表題曲では「69年以来そのスピリットは切れたままです」と魂
の不在を嘆き、「駆け足の人生」では現代人の享楽的な生活を
戒めた。

そんなピュアな精神を持っていた彼らだけに、90年代に再結成
してからはまるで産業ロックの偶像のように変容してしまった
のは大きな皮肉だった。いや、そこまで言わなくとも、バンド
の音楽性に幅を持たせたドン・フェルダーを解雇するなど、近
年のフライ/ヘンリーの言動に傷付いた古くからのファンは少な
くない。それはビートルズの昔からSMAPの現在に至るまで、
仲間と始めた楽しいことがビジネスや人間関係とともに異なる
様相を呈してくる苦々しい現実だった。いいコンビだったと思
う。大抵の場合はドン・ヘンリーが思索的な詩人となり音楽に
深みを与えた。もう一方のグレン・フライは陽気なハンサム・
ガイを演じながら「気楽に行こうよ」と呼びかけた。その両軸
がうまく噛み合っていた。仲間たちがそれを支え、テキーラ・
サーキットと呼ばれる豊潤な音楽シーンが形成された。彼らの
歌やハーモニーはローレル・キャニオンに響き渡った。もうあ
の若葉のような季節は戻ってこない。

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by obinborn | 2016-01-19 13:44 | rock'n roll | Comments(1)