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ダニー・アドラーがミーターズのライナーを書いていた!

当時気が付かなかったことを今になって知る。そんな体験は誰
にでもあると思うが、いやあ〜もうびっくりしたなあ!という
最新ヴァージョン事件を今日は書き留めておこうか。というの
もミーターズのコンピレーションLP(英Charly CRB1009:80
年)を東長崎のCREOLLE COFFEE STANDで何気に眺めていた
ところ、この盤のライナーノーツを書いていたのが何とダニー
・アドラーだったから。

アドラーといえばご存知の方も少なくないだろうが、米国はシ
ンシナティ出身のギタリスト/シンガー。どういう経緯からか
70年代に渡英し彼の地のパブ・ロック・シーンと関わっていく
アンチ・ヒーローだ。自身のバンド・ルーガレイターを率いて
発揮した音楽は変態ファンク/R&Bの数々であったが、そのアド
ラーがチャーリー発のミーターズに一文を寄せていたとは、昔
は正直言って見逃していた事実。ああ、アドラー先生もミータ
ーズがお好きだったのね!と思わず膝を打ちそうになってしま
いました。

彼はこう書き記す。The Meters cleverly techniques to fool t
ime. they stretch the beat to suit the shapes they imagineと。               この盤がリリースされた80年といえばミーターズ再評価が
進む遥か以前のこと。この編集アルバムがある種の興奮とリス
ペクトで歓迎された様子がアドラーの文面からも確実に伝わっ
てくる。しかもライナーノーツの最後には彼の手書きでサイン
とともにLove And Gusha-Gushaなるメッセージが添えられて
いる。Gusha-Gushaとはアドラーのトレードマークとなった
トレモロ・サウンドの愛称のこと。その記載を目にしただけで
ぐっと来る方もいるはずだ。優れた音楽は良い聞き手によって            再発見されていくという好例かもしれない。まるでラヴィ・シ
ャンカールの作品にジョージ・ハリソンが一文を添える行為に
も似て、私は思わず胸が一杯になってしまった。

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by obinborn | 2013-09-30 00:28 | one day i walk | Comments(0)  

ジョン・クリアリーのジャパン・ツアーが始まった

ハナシは前後してしまったが、28日に浅草HUBで行われたジョ
ン・クリアリーのライブも良かった。今年5月にコーネル・ウ
ィリアムズにテレンス・ヒギンズという辣腕リズム・セクショ
ンを伴って来日したばかりのクリアリーだが、早くもまた日本
公演が実現したことは彼の好調と人気ぶりを裏付ける。とくに
今回はソロ・ライヴということでクリアリーのピアノをじっく
り堪能するいい機会になった。5月のトリオ公演が現在進行形
のニューオーリンズ・ファンクの活況を伝えるものだとしたら、
この秋のソロ・ライブはさしずめクリアリーの素の部分を照ら
し出すものだと言えるだろう。その両軸をしっかり持っている
のが彼の圧倒的な強みだ。

筆者自身もニューオーリンズ・ピアノの弾き語りを観るのは、
80年代のドクター・ジョン以来随分久し振りのこと。オリジナ
ル曲にこだわらず、ニューオーリンズゆかりの古典曲をジェリ
ーロール・モートンからファッツ・ウォーラー、ジェイムズ・
ウェインからジェイムズ・ブッカーその他へと繋いでいく。ド
クター・ジョンのようなアクの強さは求められないかもしれな
いが、確かな技量のピアノに酔った。ブギウギから3連バラー
ドまでその音色自体も美しく思わず引き込まれる。ニューオー
リンズの音楽は管楽器もさることながら、ピアノという楽器と
ともに成長してきただけあって、いわばクリアリーによる土地
の再探訪といったところ。彼が英国人であることを思い起こせ            ば、なおさらそんな感慨は強くなる。

この日私が観たのはファースト・ショウ(約70分)だったが、
セカンド・ステージでは恐らく違う曲もどんどん取り入れられ
たはず。ファーストでは聞かれなかったプロフェッサー・ロン
グヘア、ヒューイ”ピアノ”スミス、ファッツ・ドミノらのピア
ノ・グレイツのナンバーが選曲されたのだとしたらちょっと悔
しい(笑)。いずれにしてもこのオータム・ツアーは始まった
ばかり。まだ体験されていない方はぜひ会場に足を運んで頂け
ればと思わずにはいられない。私ももう一度観たいくらいです。

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by obinborn | 2013-09-29 13:35 | one day i walk | Comments(0)  

28日のあまのじゃく

28日はジョン・クリアリーのニューオーリンズ・ピアノを浅草
のHUBで楽しんだ後、池袋のフリーフロウ・ランチに戻り、あ
まのじゃくのギグを初めて体験させて頂いた。アコースティッ
ク・ギター、ウッドベース、マンドリン、リゾネイターという
ブルーグラスの編成で彼らが演奏するのはオリジナルに加えて
ニュー・ライダーズ・オブ・パープル・セイジやグレイトフル・           デッドの数々。そのどれもが歌の詩情をこちら側にたぐり寄せ            ながら慈しんでいる様子が伝わってきて気持ち良かった。手練            手管の器楽演奏としてのブルーグラスとはまったく異なる音楽            のあり方だ。例えばデッドのナンバーは長尺インプロに真価を            発揮するけれど、あまのじゃくもまた比較的長めの演奏を自在
に、ゆったりじわじわと漂わせていくという感じ。そんな時間            を彼らと共有出来たことが、もう嬉しくて。

終演後北條さんに伺ったところ、最初はやはりロック・バンド
から始まったという。それがやがてデッドへと辿り着き、自然
とブルーグラスとも触れ合うようになる。そうした過程のなか
であまのじゃくが生まれたのだとすれば、ぼくは彼らの意識や
連綿と繋がっていく音楽という名の大河に感謝せずにはいられ
ない。

China Cat FlowerがいつしかI Know You Riderへと重なってい
く。Rippleがそれこそさざ波のように奏でられれば、アンコー
ルではFreiend Of The Devilをじっくりと聞かせる。池袋での
一晩を通して長距離列車に揺られながら、線路に響く汽笛の音
に耳を澄ませながら、大いなる土地を一人横断しているような
気持ちだ。その伴侶がまさにあまのじゃくの初々しくケレン味
のない演奏にあった。

*写真は北條夫妻と筆者

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by obinborn | 2013-09-29 01:08 | one day i walk | Comments(0)  

サザンライツ、9月25日

日本語に耳を澄ませてみるとこんな歌が聞こえてきた。「奴
らはみんな同じ制服を着せて俺らをゾンビのように扱う。で
もそうはいくもんか。オイラはこの町に育ったんだ。この訛
りを捨てたりはしないよ」そう、かつてキンクスが内気なま
まに歌った曲「Muswell Hillbillies」の翻訳版だ。正確な歌詞
までは今再現出来ないけれど、リード・ヴォーカルのガンボ
はその歌詞を自分の言葉として堂々と歌う。そんな気持ちの
晴れるようなサザンライツのワンマン・ライヴを25日は池袋
のフリーフロウ・ランチにて。

オープニングの「Willie And Hand Jive」がボ・ディドリー
のクラーベ・ビートで軽く会釈をすれば、次はブリンズレー
・シュウォーツの「Country Girl」へと連なり、さらに3曲
めはP.J.プロピーの「Nikky Hokky」と来る。 そうした自
然な流れに超満員のオーディエンスも良く応えた。ボビー・
チャールズの「Last Train To Memphis」がいつしかリトル
・フィートの「Dixie Chikin」へと場面転換し、トニー・ジ
ョー・ホワイトの「Polk Salada Annie」はやがてデイル・
ホーキンズの「Suzie Q」のリフを束ねていく。そんな変幻
自在な演奏は、いつか憧れたアメリカ南部を探訪するかのよ
う。

歌伴をきちんと解っているプレイヤーたちの含みのある演奏。
各自がエゴイスティックにしゃしゃり出るのではないバンド
・アンサンブル。それらがあたりの空気をじわりじわりと温
めていった。

*SET LIST
(Ist)
Willie And Hand Jive
Country Girl
Nikky Hokky
I've Got To Feel It
Last Train To Memphis~Dixie Chicken
Easy To Slip
I'm Not That Kat Anymore

(2nd)
Time To Kill
Dead Flowers
Ain't No More Cane
Don't Tell Ya Henry
Ooh La La
Muswell Hillbillies
Smack Dab In The Middle
Polk Salada Annie~Suzie Q

en: Willin'

*写真はサザンライツのギタリスト山本シラスくんと筆者

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by obinborn | 2013-09-26 12:02 | one day i walk | Comments(4)  

17日は下北沢のフラッシュさんで大捕獲をしました!^-^

本日は下北沢のフラッシュさんで多量捕獲しました!とくに
放出日ではありませんでしたが、じっくり時間をかけて探し
ていけばレア盤がザクザク(笑)働く小学生三期くんにまた
ね!とバイバイしてお店を後にしました。以下捕獲日誌です。

(Long Playing)
Little Milton/If Walls Could Talk(Chess)

(7's)
The Supremes/Baby Love(Motown)
The Supremes/Come See About Me(Motown)
Four Tops/I Can't Help Myself(Motown)
Four Tops/Shake Me,Wake Me(Motown)
Ray Charles/Tell The Truth(Atlantic)
Spinners/Mighty Love(Atlantic)
Wilson Pickett/634-5789(Atlantic)
Otis Redding/My Lover's Prayer(Volt)
Bobby Bland/Ain't Nothing You Can Do(Duke)
Bobby Bland/Driftin' Blues(Duke)
Otis Clay/Trying To Live My Life Without You(Hi)
The Falcons/You're So Fine(Unart)
Jimmy McGriff/I've Got A Woman(Sue)
Ernie K-Doe/Mother In Law(Minit)
Chuck Berry/No Money Down(Chess)
El Chicano/Viva Tirado (Kapp)
The Champs/Tequila(GA Challenge)
Mitch Ryder/Devil With A Blue Dress On~Good Golly
Miss Molly (New Voice)
Tower Of Power/Sparkling In The Sand(San Francisco)
The Byrds/Mr.Tambourine Man(Columbia)
The Byrds/Eight Miles High(Columbia)
Howdy Moon/Cook With Honey(A&M)
Joe Cocker/Black-Eyed Blues(A&M)
Small Faces/I Feel Much Better(Immdiate)
Rolling Stones/19th Nervous Breakdown(London)

以上LP1枚、シングル25枚をゲットしました。帰りには
三鷹のバイユーゲイトに少し立ち寄り、リトル・ミルトン
を有さんとともに楽しく聞きましたとさ。

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by obinborn | 2013-09-17 23:12 | one day i walk | Comments(2)  

東京ローカル・ホンクが地元に帰ってきた

16日は武蔵小山のアゲインにて東京ローカル・ホンクのライヴ
を。目黒〜品川エリアでバンドを始めた彼らのホームとでも言
うべき地域での公演だけに、普段にも増して親密感が溢れる素
晴らしい演奏となった。しかも第一部では古くからホンクの良            き理解者であり、ぼく自身尊敬して止まない森勉さんを進行役            に迎えてのトーク・ショウが繰り広げられ、ファンとの交流を
より親密に保ちたい!という主催者の気持ちが伝わってきた。

第二部のライヴ・パートも時間たっぷり。「サンダル鳴らしの
名人」から「お休みの日」へと繋げるなど序盤はホンクの生ま
れた城南の光景を盛り込み、品川の工業地帯を切り取ったと思
しき「昼休み」でまずは最初の頂点を迎え、終盤に「社会のワ
レメちゃん」や「おいでおいで」で畳み掛けていく様は、さし
ずめ無邪気に遊んでいた青年が世の中の壁にぶつかり、煩悶し
ながら世界のありかを知っていく過程のよう。

最近のライヴでリーダーの木下弦二がMCでよく紹介するのは
新曲「お手手つないで」のこと。彼がその曲の前に必ず強調
するのは「この曲は”食べて応援”とはまったく違います」とい
った旨だ。”食べて応援”という震災以降はびこった言説がある。
それらに対してきちんと違和を唱えながら、それでも明るくあ
ろうとする彼の心のありよう。それがどんなに尊いことだろう
か。

「車のうた」のような一見何でもないロード・ソングが震災後
にまったく別の意味を携えていく。聞き手の奥底に何らかの変
化を促す。音楽とは生き物に他ならない。そんな逞しい演奏が
終盤になるにつれ、なお一層熱を帯びていった。ロック・カル
テットとしての人力演奏。その極致をはっきり示してくれたメ
ンバーたちのミュージシャン・シップに感動せずにはいられな
い、忘れ難い一夜となった。

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by obinborn | 2013-09-17 04:32 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

パイレーツ・カヌーの新作『Three』に寄せて

パイレーツ・カヌーの3作め『Three』が発売された。その前
には女トリオで初めてレコーディングに臨んだ『Sailing Hom
e』というややサブサイドな作品もリリースしているが、今回
の新作が6人バンドとしては文字通りの”スリー”。期待に胸が
高ぶるのは無理もない。しかもアルバムは欅夏那子が珍しくも
ソングライティングに取り組んだインスト曲「Fake」で幕を開
けるという大胆なアプローチを示していく。哀感に満ちた欅の
フィドルと変拍子のミックスに、ぼくのようなオジサンはつい
フェアポート・コンベンションの演奏を思い起こしてしまうが、
次第に音が重なりドブロ・ギターやマンドリンが熱を帯びてい
く様は、吉岡孝のアフロ・ビートとも相俟ってスリリングだ。

レゲエ・リディムを配した「Dream Song」とブルーズ・フォ
ームの「The Ungrateful Blues」がそれに続き、従来のカヌー
とは異なる冒険を試みる一方で、「The Witch Of The Hills」
と「Crazy Krissie」ではこれまでの通りの彼女彼らの持ち味、
つまりルーラルなカントリー風味や爽やかなハーモニーが全開
になるといった塩梅である。9月14日の高円寺JIROKICHIでも
この新作からの曲を幾つか演奏してくれたが、スタジオ・アル
バムも従来同様に一発録音ということで、ライヴの場との落差            はまったくと言っていいくらい感じられない。

町に出掛けても、たまに田舎に引き籠っても、いたるところか
ら音楽は聞こえてくる。でもその殆どが騒音にしか聞こえない
のは何故だろう? 単純にぼくが歳を喰ったとか、世の流行に
興味がないといったことを差し引いたとしても、時代からこぼ
れ落ちてしまったような寂しさを感じる。ぼくが普段見ている
景色やウォーキングの際に接する空気。それらと触れ合うよう
な音楽をもっと見つけたい。パイレーツ・カヌーはそんな願い
を叶えてくれる得難いグループだ。もし明日晴れたのならカヌ
ーの音楽とともに深呼吸をしようと思う。それも思いっきり背
筋を伸ばして。

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by obinborn | 2013-09-15 13:35 | one day i walk | Comments(0)  

一年ぶりにホンクとカヌーのジョイントが実現!

二週間ぶりのホンクと一年ぶりのカヌー。そんな二組
のジョイント・ライヴを14日は高円寺のJIROKICHIで
思いっきり楽しんだ。東京ローカル・ホンクも京都か
らやってきたパイレーツ・カヌーも、音楽に対する取
り組み方がとても瑞々しい。日本語のきれいな響きを
ずっと育んできたホンクはこの道20年以上のベテラン
であり、今や誰もが賞賛を惜しまないリスペクタブル
な存在だが、手垢に塗れたような部分がまったくない。
彼らの毎日毎晩の演奏がぼくにはまるで生まれたばか
りの歌のように聞こえる。対するカヌーはここ数年の
成長に驚くばかり!今回はちょうど新作『Three』を
携えてのライヴだったが、その前にアメリカ・ツアー
を体験したことも大きな糧となったに違いない。

この日はまずホンクがアカペラで新曲「夏みかん」を
披露してからカヌーを迎えるという昨年7月とほぼ同
じ構成。カヌーの場合ルーツ音楽が大好き!みたいな
な紹介のされ方をよくされるけれども、世襲制という
かどっかに偉大なお手本があってそれの完コピを目指
すというような音楽のあり方とは無縁だ。むろんパー
ツとしてブルーグラスなりアイリッシュ・チューンの
語法を取り入れた部分も大きいが、ハント鈴加や河野
沙羅のソングライティングには(いつも言っているこ
とだけど)不思議と日本的な情感が色濃く漂っている
点が面白い。そうしたワビ・サビのある曲を、リゾネ
ーターやマンドリンやフィドルといった弦楽器で彩り、
リズム・セクションも起伏ある構成(ときに変拍子)
と丁寧に丁寧に向き合っていく。もしカヌーたちが誰
かよりも上手く楽器を弾けるとか、お師匠さんのお墨
み付きとか、そういうことに価値を置くような器楽自
慢のバンドだったら、ぼくはけっして彼女たちや彼ら
に惹かれることはなかっただろう。

ホンクの視界の広げ方も美しい。うずまき時代の「ヒ
コーキの歌」に始まり、「泥男」「お手紙」「目と手」
「夜明けまえ」そして最後には「おいでおいで」と、
それぞれに独立したひとつひとつの歌がまるでソング・
サイクルのように連鎖していく様は、アルバムのシー
クエンスとはまた別の逞しい流れを生み出していく。
それらの歌詞にしても一見平易な言葉とその連なりが
どれだけ豊かなものなのかをそっと伝えるかのよう。
親しみやすく明るい「いつもいっしょ」に伴う影のこ
と。「ヒコーキ」で描かれる空飛ぶ異国の人のこと。
木下弦二のソングライティングはかくのように重層的
だ。

カヌーと合体しての終盤のセッション・タイムでは、
スティーヴィ・ワンダーの「マイ・シェリー・アモー
ル」とエリック・クラプトンの「メインライン・フロ
リダ」が選ばれ、お客さんたちの盛り上がりも最高潮
に。この時ばかりはホンクもカヌーも洋楽大好きのア
マチュア時代に戻るかのよう。昨年のアンコールはロ
ーウェル・ジョージとヴァン・モリソンだったよな〜
なんてふと思い出してしまったぞよ。

そんな訳でぼくは最寄りの私鉄沿線駅に降り、深夜営
業のスーパーマーケットで今晩最後のビールを買った。
そう、いいライヴの帰り道がいつもそうであるように。

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*写真はパイレーツ・カヌーの皆さん
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by obinborn | 2013-09-15 02:27 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

『夕凪の街 桜の国』を読んで〜もう一つの被爆体験

直截な表現が必ずしも真実を伝えるとは限ら
ない。むしろ抽象化された文や絵のほうが遥
かに心に何かを宿らせる。私たちが音楽や映
画そして文学という”飢えた子の前では役に立
たない”ものを求めて止まないのは、スローガ
ンや法律やマニュアルでは到底補うことが出
来ない心の襞に触れたいがためであろう。

私がいつもメッセージ・ソングや反戦歌とい
うフォーク・ソングのフォーマットに窮屈さ
を感じてしまうのも恐らく前述したことと関
係する。極端なハナシ、反戦や平和を訴える
だけならばデモや集会に行ったり議員や官僚
に嘆願書を提出することのほうがずっと現実
的な選択である。音楽にはもっと音楽にしか
語れないものであって欲しい。

”はだしのゲン騒動”に揺れた今年の夏、私は
未読だった『夕凪の街 桜の国』(04年双葉
社)という漫画を読んだ。作者こうの史代は
広島市の生まれでありながら被爆者でも被爆
二世でもない昭和40年代生まれ。本人があと
がきで記しているように原爆は「よその家の
事情」だったという。だがそんな距離感を抱
えた彼女だからこそ間接的な表現を用いなが
ら被爆を遠近法で見つめることが出来たので
はないだろうか。

戦後の広島で皆実という若い女性が過ごす日
々を描いた「夕凪の街」では、被爆体験者な
らではのリアリティやトラウマが胸に迫るの
だが、それの連作となる「桜の国」では一転
場所も現代の東京近郊に設定され、そこに暮
らす係累・七波の物語となっている。過去と
現在、広島と東京、二人の女性。そんな対比
によって作品は静かながらそれ故に深い陰影
を湛えているのだと思う。そして父の後をそ
っと追いつつ広島までバス旅行する七波の姿
は私にソング・サイクルという言葉を思い起
こさせる。親のいない子がいないように、生
まれた町を持たない者はいない。そのことを
こうの氏は大言壮語的にではなく広島と東京
との循環のなか、抑制したタッチで描き出し
ていく。

政治的な見解や”犯人探し”は注意深く避けら
れている。算数の出来ない子供を前に学校の
先生が「すぐ原爆のせいとか決め付けるのは
おかしいよ」と諭す一コマにも、作者の思い
が滲み出るかのようだ。池澤夏樹氏の言を借
りれば、特定の誰かを糾弾することで何かが
解決するのであればとっくに放射能は止んで
いるだろう(『春を恨んだりはしない』)
歴史や事象といったものはいつも複合的だ。
そんなことをこうの史代さんは言いたかった
のかもしれない。

ドラマティックに盛り上げていくのではなく、
肉親や兄弟、級友や職場の同僚といった身近
な人々との会話を軸に淡々とストーリーを積
み重ね、普段の日常のなかで被爆を捉え直し
ていく。彼女のそんな心映えが爽やかに伝わ
ってくる優れた一冊だ。

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by obinborn | 2013-09-09 09:56 | 文学 | Comments(0)  

9月最初のthe BM's

骨太なロックがどこまでも続いた夜だった。一曲ごと
の子細がどうこうというよりはたっぷり2時間を通し
て快いグルーヴの波が束になって押し寄せる。そのこ
とに感謝せずにはいられない。そんな力強い青山陽一
the BM'sの演奏を9月1日は沼袋のオルガン・ジャズ
倶楽部にて。もうすっかり恒例化した同会場でのレア
なライヴだが、この日もまた満員の会場は歓喜の渦に
包まれた。そこにいた幸せをぼくは今噛み締めている。

リフをがんがんと重ねながら攻めに出る部分と、ソロ
・パートで柔らかくメロディアスに飛翔していく瞬間
とのコントラストが何とも鮮やか。そんな場面転換を
至るところに用意しながら、このオルガン・トリオは
少ない音数で最大の効果をもたらせた。伊藤隆博のハ
モンドB3と中原由貴のドラムスが青山のテレキャスタ
ーと丁々発止を繰り広げていく様は、後半になればな
るほど爆発していく。多少荒削りな部分はあったけれ
ども、このザクッとした質感はぼくが大いに好むとこ
ろでもある。

抽象的な歌詞。どこに着地するか解らない不思議なメ
ロディ。色彩感のあるギター。それらはどれも青山の
音楽を特徴付けているものだが、近年はそこに逞しさ
が加わった。彼のギターが淀みなくフレーズを連発す
るのは勿論、ソロ・パートでのタイム感に秀逸なもの
を感じる。終演後本人に訊いたところでは「ずらすの
が好きなんです」とのこと。それもまた青山のイメー
ジへ自然と折り重なっていく。この日は意図してバラ
ードを殆ど外し、長尺演奏に集中していく様が何とも
頼もしかった。生きざま系ロックでも、「ぼくちゃん
を誰も解ってくれない」的な自己憐憫でもなく、この
人は誰にも真似出来ないようなソングライティングを
携えながら、85年にデビューした。それから30年近
くが経ち、この夏に彼はまた一つ歳を重ねた。そのキ
ャリアを感じずにはいられない素晴らしい夜になった。


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*お写真は青山陽一さんのblogよりお借り致しました
 予めご了承ください
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by obinborn | 2013-09-02 01:59 | 青山陽一theBM's | Comments(0)