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蛇行する月

名もない市井の人々の暮らしに光を当て、日々を懸命に過ごす
登場人物たちを映し出す。桜木紫乃さんの小説はそんな魅力に
溢れている。主人公たちの年齢は様々であり、また一人の人物
が若かった頃から現在までの姿までを追う筆さばきも見せてい
る。多くの作品に共通するのは煩悶し逡巡を繰り返す彼らや彼
女らの姿だ。

桜木さんが実際に暮らす北海道に舞台を徹底しているのもいい。
夏は短く冬は気が遠くなるほど長い。恐らく閉じ込められてい
るという感覚はぼくが住んでいる東京よりずっと切実なはず。
そんな厳しい土地の匂いに加えて、地方の停滞した経済や朽ち
いくばかりの風景が重なる。道内の描写に優れた作家としては
他に佐々木譲さんがいる。彼もまた長い冬と触れ合う優れた書
き手であろう。

暮らしている場所が狭ければ狭いほど人間同士の関わりは密に
なり、それが時には煩わしくもなるだろう。それでも彼女の作
品を支えているのは無名であることの愛おしさだと思う。『蛇
行する月』や『起終点駅(ターミナル)』を読み終わって、ぼ
くは幾つかの勇気とともにそんなことを思った。

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by obinborn | 2014-01-28 22:13 | 文学 | Comments(0)  

明るい歌の悲しい響き〜ジェイムズ・テイラーのこと

昨日のDJでジェイムズ・テイラーを回したら、あとで同世代と
思しき男性から声を掛けられた。彼曰く「いや〜ぼくも節目節
目にJ.Tを聞くんですよ」およそそんな会話だったと思うけど、
嬉しかったなあ。69年の12月にロスのサンセット・スタジオ
で録音され翌年にリリースされた彼の『Sweet Baby James』
はとかく時代背景とともに語られがちだけど、それを抜き取っ
たとしてもSunny Skies、Blossom、Anywhere Like Heaven
などいい曲、瑞々しい演奏が並んでいる。

面白いのは当時を知らない世代の音楽家がジェイムズを敬愛し
ていることだ。昨晩の主役である中村まりさんとおおはた雄一
さんにしてもそう。中村さんは笹倉慎介さんと共演する時に
よくSweet Baby Jamesを取り上げるし、おおはたさんは昨日
の終演後「いやあ〜、ダニー・コーチマーが好きなんです!」
とおっしゃっていたっけ。J.Tやジョー・ママ辺りのホワイト・
ソウル的な部分はきっとおおはたさんの栄養にもなっている
はず。そういう意味でもやはり時代を超える名作なのかな。

但し先ほど触れたように時代を代弁するような作品でもある。             Fire And Rainでジェイムズはこう歌っている「燃える炎を見            てきたよ、降り注ぐ雨も見てきたよ。でもスーザン、またきみに           会えるとずっと思っていた」この歌は彼のガールフレンドが自
殺してしまった頃に書き上げられたらしい。また火や雨といっ
た単語が激しく揺れ動いた学園闘争や反戦運動の時代のメタフ
ァーであることは論を待たないだろう。そうした季節のなかに
あって、それでも最後に「スーザンに会いたかった」と告白す
る主人公の偽らざる個人的な姿に人々は共鳴したのだった。

思えばぼくが二十歳の頃はまだ学園闘争の余塵みたいなものが
あった。信じて貰えないのかもしれないけれどセクトから逃亡
してきた女の人が身を隠すべくぼくの近所にあった森に逃げて
きて、それを匿った父の姿はぼくにはあまりに強烈な体験だっ
た。ぼく自身もキャンパスや街頭で政治セクトから新興宗教ま
でにオルグされまくったっけ。田舎から上京してきたばかりの
まだ友だちもいない寂しい若者にとって、それは甘い誘惑だっ
た。

それでもぼくは大勢の仲間より一人ぽっちの自分を(意識しな
いままに)選んだのだと思う。どんなに高邁な思想であれ、い
かに立派な主張であれ、それが他の誰かを傷付け排除するよう            な運動であるならば何と空しいことだろう。そんな集団に翻弄
されるのであれば、メソメソとガールフレンドの行き先を案じ
たり、彼女があえて選択した残酷過ぎる結末を歌に託したジェ
イムズのほうがよほど人間らしいのではないか。昔も今もぼく
が考えているのはそんなことだったりする。

このアルバムではCountry Roadの旅への誘いや、12月に初め
て降る雪と新しい生命に思いを馳せたSweet Baby Jamesも好
き。明るい陽射しのなかに悲しみを聞き取る。そのような音楽
体験をしたのは、ぼくはジェイムズ・テイラーが初めてのこと
だった。

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by obinborn | 2014-01-26 20:05 | rock'n roll | Comments(0)  

ゲラント、一杯やろうぜ!

パブ・ロックの友Yくんから昨日会場で手渡されたのがゲラント
・ワトキンス昨年の10インチ盤『MOSQUITO』のVol.1と2。
彼に通販の手続きを頼んだのだけど、いやあ〜嬉しかったなあ。           2枚ともに4曲入りのミニ・アルバムであり、ここ最近のゲラ
ントの歩みを物語るジャジーで大人っぽいテイストが一杯だ。            ずっと交遊関係にあるニック・ロウの近作にも通じる、いわば
燻し銀の味わい。それでも手垢に塗れたAOR路線に陥るのでは
なく、ゲラントらしい朴訥とした歌声が聞こえてくるのがたま
らなく愛おしい。彼の場合本業の鍵盤プレイもさることながら、
時折弾くギターの表情が豊か。こういう言い方が適切かどうか
は解らないけれど専任プレイヤーにはない初々しさが感じ取れ
るギターだと思う。親密さが零れ落ちてくるような楽曲群。ぼ            くはとくにvol.2に収録されたボサノヴァ風のMosqutoと、去り            ゆくものへの郷愁を込めたThis Old Fashioned Love が好き。こう            いうのを聞いちゃうとまた冬のロンドンに行きたくなる。イシ           リントン地区辺りのパブでギネスを飲みたくなる。
パブ・ロックが好きで本当に良かったと思えるような瞬間だ。

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by obinborn | 2014-01-26 09:33 | one day i walk | Comments(0)  

毎日のパンのように、久し振りの友のように

もはや毎日食べるパンのように馴染んだ中村まりと、09年以来
久し振りのおおはた雄一のツーマン・ライヴを25日は青山CAY
にて。安宅浩司のギターと親密に対話する中村も、SSWのイメ
ージを覆すスリリングな即興パートを存分に発揮したおおはた            トリオも凄く良かった。最後は互いにレコーディングしたこと            があるディランDon't Think Twice ,It's All Rightで。そこでの二人            の息遣いは最後まで聞き手たちを捉えて離さなかった。

なお開演前、私のDJリストは以下の通りです。

Carole King/Sweet Seasons
Joni Mitchell/Big Yellow Taxi
Roger Tillison/Loving You Is Sweeter Than Ever
Fairport Convention/Suzanne
Sandy Denny/The Last Thing On My Mind
J.J.Cale/Magnolia
Crosby & Nash/Southbound Train
Ron Davis/Long Hard Climb
James Taylor/Sweet Baby James

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by obinborn | 2014-01-26 02:19 | 中村まり | Comments(0)  

震災をもう一度振り返る

2011年の大震災後ぼくの心を占めていたのは、こんなに家に
帰れない人たちが大勢いるのに自分は平穏な日々を過ごして
いていいのだろうかという問いだった。あの頃被災地の人から
「お酒を飲んでいいんですよ、楽しんでください」というCM
が流されたけど、そう言ってくださる彼らの優しさにかえって
複雑な思いを感じたのは何もぼくだけではあるまい。

むろん日々は更新していく。悲しみの総量に溺れてしまうとい
っこうに前に進めない。それが現実の姿だろう。同時に極めて
深刻だったのは震災とそれに伴う原発事故のことで世論が二分
してしまったことだ。これまで少なくとも原子力の供給によっ
て都市生活を享受してきたぼくは、あの日を境に反旗を振りか
ざすことは出来なかったし、東京電力を明確な敵へと定めなが
らデモすることもしなかった。物事とはそんなに簡単に敵と味
方を峻別出来るものではないだろう。そんな苦い気持ちばかり
に覆われた。

誰かの運動に何かを仮託してはいけない。そんなことを漠然と
学んだのはぼくが高校生の頃に読んだ庄司薫の『赤頭巾ちゃん
気をつけて』だったかもしれない。60年代末の学園闘争を舞台
にしながら「ぼく」という一人称の主人公はこう問い掛ける。
「他の誰かの意見に従うのではなく、ぼく自身が本当に感じた
ことを信じたい」およそそんな主題が終盤に仄めかされていた
と記憶する。いわば集団性に寄りかかるのではない個的な思い
の発動だ。

自分で見たもの、感じたことを人に伝えることは難しい。それ
でもぼくは(すっかり中年のおっさんになった今でも)標語と
かスローガンから零れ落ちてしまう何かを大事にしたい。大言
壮語の影で息を潜めている沈黙に耳を傾けたい。

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by obinborn | 2014-01-24 02:12 | one day i walk | Comments(0)  

重要なお知らせ

一般的にはまだあまり知られていない優れたバンドや
アーティストを広く紹介したい。そんな気持ちで07年
の頃から幾つかの日本のインディ・シーンを追いかけ、
ライブ・ルポを随時書いてきました。そのうちの幾つ
かはファンの方々からご好評を頂いたり、当該の音楽
家たちの励みになったと伝え聞いたこともありました
が、ここ最近はライブを観てすぐに書くという行為が
何やら自分のなかで慣習化してしまい、もっと気軽に
(メモなどを取らずに)音楽そのものを楽しみたい、
という気持ちに傾きつつもあったのでした。

シーンといってもぼくの場合ある一定の信頼の置ける
ミュージシャンたちを定期的に聞くということですか
ら、その賞賛なり課題点なりはどうしても同じ言葉の
繰り返しになりがちです。彼らへの変わらぬ敬意とか
ぼく自身の思いとかはともかく、あまり特定の音楽家
たちのことばかりオビが書き連ねていると逆効果にな
るのでは? といった指摘もありました。何しろ善意
が善意として届かない困難な時代。そんななかでも心
ある言葉をかけてくださったファンや音楽家たちには
感謝の気持ちで一杯です。

そんなこともあってこれまで続けてきたライブ・ルポ
を一旦中止にします。勿論大好きな人たちの愛すべき
音楽ですからこれまで以上にサポートしていきますし、
彼ら彼女らに劇的な変化があった場合ぼくの指はすぐ
にキーボードを叩いているはず。つまりごく平たく言
えば、パターン化を避けるべく自然にというのが現時
点での結論でしょうか。

幸いなことにこのBLOGではアーカイヴとして彼らの
今までの軌跡を振り返ることが出来ます。名前を検索
していけばすぐに辿っていくことが出来るのですから、
ぼくのやってきた日誌(ログ)にも少しは意味がある
のかもしれません。とまあ堅苦しい文章になってしま
いましたが、またライブ会場でお会いしましょう。

2014年1月
小尾 隆

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by obinborn | 2014-01-15 17:05 | one day i walk | Comments(4)  

フラッシュさんで初買いでした!

今日(14日)がやっと初レコ買いでした。以下下北沢のフラッ
シュさんにて。もう最高!
~Long Playing〜
Archie Bell &The Drells/Tighten Up(Atlantic)
The James Cotton Blues Band/Pure Cotton(Verve)
~7's~
J.J.Cale/Crazy Mama(Shelter)
Jeanie Greene/Only The Children Know(Elektra)
Jay&The Americans/This Magic Moment(U.A)
The Joe Cuba Sextet/Push,Push,Push(Tico)
Willis Jackson/More Gravy(Prestige)
Jack Mcduff/The Carpetbaggers(Prestige)
Jimmy Smith/Jumpin' The Blues(Blue Note)
The Smiley Lewis Trio/The Bells Are Ringing(Loma)
Chuck Willis/What Am I Living For(Atlantic)
The Impressions/This Is My Country(Curtom)
Lowell Fullson/It Took A Long Time(Checker)

その後、新橋の音楽バーARATETUUNDERGROUNDへ久しぶ
りにお邪魔し音楽談義を! すごく楽しかったです!

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by obinborn | 2014-01-14 23:13 | one day i walk | Comments(0)  

13日は三鷹バイユーにて新年会DJを

本日(13日)は三鷹バイユーゲイトにて7インチ新年会でした。
各々個性あるDJをして頂いた山名昇さん、牧裕さん、文屋章さ
ん、もっさん、そしてお越し頂いた皆様、ありがとうございま
した! お陰様でいい年のスタートを切れそう。以下私のプレ
イリスト(テーマはブルーアイド・ソウル)です。ご参考まで
に。

Steppen Wolf /Sookie Sookie(68年10月3位になったMagic
Carpet RideのB面曲)
Lonnie Mack/Wham! (63年9月全米24位)
Soul Survivers/Expressway To Your Heart(69年9月4位)
Bobby Gentry/Ode To Billie Joe(67年8月1位)
Tony Joe White/Pork Salada Annie(69年7月8位)
Jose Feliciano/Hi Heel Sneakers(68年10月25位)
Classics Four/Stomy(68年11月5位)
Johnny Rivers/Memphis(64年6月2位)
〜〜
en:1 The Crickets/Please Don't Ever Change
(Ode To Mr.山名昇)

いや〜、めちゃ楽しかったです!

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by obinborn | 2014-01-14 00:39 | rock'n roll | Comments(0)  

トルーマン・カポーティと私

ぼくがカポーティの小説に夢中になったのはまだ若い二十歳の
頃だった。テイファニーや冷血は勿論読んだけれど、「夜の樹
」などの短編も良かったし、何よりいっぺんに引き込まれたの
は、少年が南部を巡っていく冒険奇譚『遠い声、遠い部屋』だ
った。アメリカの優れたフォーク・シンガー、ナンシー・グリ
フィスはこれをアルバム表題に掲げたこともあるくらい。そん
なこともあって、いつしかカポーティはぼくの隣人となってい
った。とかく普段の言葉は届きにくい。町やテレビの喧噪のな            かにあってはなおさらだろう。だからこそ遠い声を聞きたいと            思う。ぼくのささやかな願いとはおよそそんなことだったりす
る。

人々は過剰なまでにネットというツールで繋がりを求める反面、
そこで現れにくい(あるいは極めて困難な)ニュアンスとか心            の襞に関しては意外なまでに無頓着であったり無関心であった            りする。それはそれで仕方ないのかもしれない。このぼくだっ
て人のことは言えまい。少なくともぼくはPCを利用しながら、
邪心に取り込まれてしまうことがあるのだから。

音楽の原稿を書き始めてから今年で24年めになる。その間には
いいこともあったし悪いこともあった。ごくフェアに振り返れ
ばおぼつかない部分もあったと思う。それでも幾人かの人はぼ
くの原稿を誉めてくれたし、そうでない時は逆に文才のなさを
呪ったりもした。

「人々が私をどう思おうとも、それが本当の私でない限り、ど
うと言うことはない」

カポーティが遺した言葉である。その毅然とした態度にぼくは
今日も背中を伸ばせてみよう。

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by obinborn | 2014-01-08 20:20 | one day i walk | Comments(0)  

ティム・ハーディン再び

今年の正月もおおむね家でのんびり過ごした。
実際に外出といえば、実家に帰って墓参りを
したことくらいだが、大掃除をし部屋をそれ
なりに片付け、新しいレコード針へと取り換
えてから聞く音楽はやはり気持ちのいいもの
だ。

ただ時は確実に重ねている。ここ数年著名な
音楽家の訃報を耳にすることが以前にも増し
て多くなっただけでなく、実家に帰ってみて
も地方の停滞のせいかどうかバス路線の幾つ
かが廃止(もしくは変更)され、かつて新興
住宅地だったところは寂れ、何より自分自身
が歳を重ねた。テレビでは大晦日に渋谷に繰
り出す若者たちの姿を映していたが、そうし
た喧噪とはやはり距離を感じてしまう。

昨秋行われたポール・マッカートニー久し振
りの来日公演に関して、死が近くなっている
との旨を新聞に寄稿していた方がおられた。
ジョンが殺されジョージが闘病の果てに力尽
き、また多くの仲間もまた別れを告げるなか
ポールは死の儀式をしている。そんな見方だ。
あの陽気で快活なポールの音楽や彼のライブ
という祭典にさえ、死の影が忍び寄っている
という指摘。それがいささか悲観的なものだ
としても、会場を埋めた多くの観衆たちにと
って他人事ではなかったはず。

そんなことを漠然と感じながら見る冬景色も
悪くない。日々のウォーキングをこなしなが
ら町の様子を窺うのも案外楽しみだ。血圧が
少々高めなのは心配だが、それでも手足は自
在に伸びるし、思考回路が錆び付いたわけで
もない。古い音楽を繰り返し聞くことによっ
て若い時には気が付かなかった感情の襞に触
れてみるのは、遅まきながらささやかな徳の
ようなものかもしれない。

薔薇の儚さを恋人に譬えたティム・ハーディ
ンのMisty Rosesを聞いていると、この人に
は20代の頃から鋭利に未来の怯えを感じ取
る能力があったのだなと感心する。俯きが
ちな歌声からは束の間の幸せが、ウッドべー
スやヴィブラフォーンの鼓動とともにじわり
じわりと伝わってくる。ぼくはロン・ディヴ
ィスによるカバー・ヴァージョンも好きだが、
やはり作者版にはハーディンでしか描けない
世界があるのでは、と語り掛けたくなる。

これから本格的に冬が訪れる。樹木は枝を枯
らし、大地は大いなる眠りへと付く。薔薇は
まだ蕾を閉じたままだ。

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by obinborn | 2014-01-06 02:07 | one day i walk | Comments(0)