人気ブログランキング |

もはや楽園などない〜映画『ノマドランド』を観て

キャンピング・カーでアメリカを横断する人々の映画『ノマドランド』を観ました。ある者は失業したこと、ある者は配偶者を失なったこと、またある者は病気に罹ったことをきっかけに、このような車上生活を始めます。アメリカの貧困が背景にあるとはいえ、彼らがいわゆるホームレスと違うのは明確な意思を持ってキャンピング・カーに乗る移動生活を送っていることでしょう。ネヴァダ、ネブラスカ、カリフォルニアと全米各地を跨ぎ、お金が無くなったらアマゾンやレストランで働き、また新たな土地を旅する。それが”ノマド"の生き方です。勿論見た目ほど気楽な暮らしではなく、厳しい気候や不便が嫌になり定住に戻る者もいますが、概してノマドの多くは物質文明の息詰まりに自覚的で、年相応の死生観を有しています。あくまでスクリーンを通してですが、アメリカの広大な自然と触れ合いながら旅するノマドたちを眺めていると、毎日同じ会社で古雑巾のように働き、売上の前年比を達成するために粉飾決算までする...そんな抑圧的なサラリーマン生活を考え直させられる人も少なくないのではないでしょうか?
劇中にはヒロインが「顧客を騙し一生ローンを搾り取るやり方がいいとは思えないわ」と不動産業者へ疑問を呈するシーンが出てきます。しかしながら、仲間のノマド族が「それは言い過ぎだよ」と諌めるなどバランスを保っている部分も、決して車上生活を全面的に礼賛するのではない作者の複雑な思いを伝えているようです。

もはや楽園などない〜映画『ノマドランド』を観て_e0199046_13313024.jpg

# by obinborn | 2021-04-02 13:32 | blues with me | Comments(0)  

3月27日の吉村瞳

まるでポール・ジェレミアが新橋のアラテツに君臨したような夜だった。ルー・リードのsweet janeから、ウディ・ガスリーのdoremiまで、27日は吉村瞳のカバー・ナイトvol.3をたっぷりと。とくにデルタ・ブルースへと大胆に改変されたゼップのrock'n rollは圧巻だった。やはり彼女の根底にはブルースがあり、その磁力を改めて感じずにはいられなかった。自在にスライド・バーを滑らせていくブラインド・フェイスのcan't find my way homeもじわじわと心を温めていく。吉村瞳、恐るべし。

1 sweet jane
2 the rebel jesus
3 wild night
4 grace is gone
5 rock'n roll
6 midnight rider
1 watching the river flow
2 i can't stand the rain
3 gypsy woman
4 the harder they come, the harder they fall
5 black muddy river
6 like a rolling stone
e1 can't find my way home
e2 do-re-mi
3月27日の吉村瞳_e0199046_07552164.jpg

# by obinborn | 2021-04-02 07:55 | blues with me | Comments(0)  

長谷雅春氏の労作『A Guide To TEXMEX』に寄せて

『A Giude To TEXMEX』(五絃社)が発売されました。このFBの読者のなかにはフラーコ・ヒメネスやスティーヴ・ジョーダンくらいなら知っているよ、という方も少なくないと思います。はい、私もその一人ですが、本書にはそういう人達がもう一歩テックスメックスの世界に踏み込んでみるきっかけが用意されていると言っていいでしょう。しかしながら、この『ガイド』がその道の重要アーティストや代表的名盤を紹介する通常の指南書と大きく違っているのは、あくまで日本人のテックスメックス奏者(橋本伊佐男氏、赤坂喜代司氏、オノリオ氏)への取材を主眼とした点にあります。彼らのインタヴューを読んでみると、三人がともにロックやソウルやファンクという同時代の音楽をきっかけにバンドを始めながら、紆余曲折を経てテックスメックスに辿り着いた過程が語られています。また比較的馴染み深いギターやピアノではなく、バホセクストやボタン式アコーディオンという複雑な構造を持つ民俗楽器を習得した労苦や、本場サンアントニオに出向いて世界を広げていった喜びもリアルに伝わってきます。本書を編纂された長谷雅春さんは恐らく、こうした日本人のプレイヤーを取材することで、あまり一般的には知られていないテックスメックスという辺境の音楽に親しんでもらおうとしたのでしょう。実際にネットで調べてみれば彼らのライブに接することが出来ますからね。個人的にはトニー・デ・ラ・ロサへの言及が大変勉強になりました。オノリオ氏曰く「トニーはハウリン・ウルフ、コミュニティの中で演奏した。フラコはマディ・ウォーターズ。コミュニティを出て行って白人の聴衆の前でもどんどん演奏した」う〜ん、なるほど〜。

長谷雅春氏の労作『A Guide To TEXMEX』に寄せて_e0199046_07461632.jpg



# by obinborn | 2021-04-02 07:47 | Comments(0)  

コロナ禍と佐野元春とエンターテイメント

まずはコロナ禍でコンサートをやり遂げた佐野元春に感謝したい。先週末の武道館公演が無事終わった今、安堵とともにそんな喜びを噛み締めている。彼ほどの大物であれば集団感染というリスクを回避するために、山下達郎や竹内まりやが取った中止や延期という選択肢もあっただろう。この状況下ではそちらの考えのほうがどちらかといえばクレヴァーな大人の対応として映る。まして3月13日の東京はまだ非常事態宣言の只中だった。しかし、そんな自粛ムードに流されることなく佐野は決断したのだ。無論関係者の間では様々な意見が交わされたことだろうが、最終的な判断を彼は恐らく自分自身の意志によって決めたに違いない。ここら辺は反抗のポーズを取りつつも体制に順応するばかりの自称ロッカーとは大違いだ。また最高のライブ環境を作るべく終始協力したオーディエンスのマナーも讃えたい。今回の公演実施は現在の閉塞したエンタメ界に風穴を開けるきっかけになっただろうか?それはまだ誰にも解らない。きっと時間が経ってから見えてくるものがある。そう、その時になって初めてあの日ステージに立った佐野元春の行動力が理解されるのかもしれない。

コロナ禍と佐野元春とエンターテイメント_e0199046_04333648.jpg


# by obinborn | 2021-03-20 04:35 | rock'n roll | Comments(1)  

3月13日の佐野元春&ザ・コヨーテ・グランド・ロッケストラ

佐野元春&ザ・コヨーテ・グランド・ロッケストラの武道館公演が終了。新旧の楽曲をうまく混ぜ合わせながら、全29曲がテンポ良く繰り出されてゆく圧巻の2時間50分だった。今日のMCで彼が歴代三つのバンドに感謝の言葉を述べていたように、佐野は激しく高鳴るビートとともにこの40年を駆け抜けてきた。個人名義のシンガー・ソングライターでありながら、”お涙頂戴”的な歌のありようを嫌い、歌の主人公が風景から抜け出し、鮮やかに立ち上がってくる動的な世界を、佐野はいつもバンドとともに築き上げてきた。むろん試行錯誤の時期もあったのだろうが、この人の”動き出していく言葉”は80年3月のデビュー時からずっと一貫している。もし作風に変わってきた点があるとすれば、かつては無邪気だった歌の主人公に、ほろ苦い表情が色濃く出てきたことくらいだろうか。むろんその様子は世相を反映し、年齢を重ねてきた私たちの姿ともぴたり重なっていく。歌が時代を切り取り、聞く者と手を携えていくとは、きっとそういうことだ。

1 ジュジュ
2 ナポレオンフィッシュと泳ぐ日
3 新しい航海
4 レインガール
5 ダウンタウン・ボーイ
6 レインボウ・イン・マイ・ソウル
7 ハートビート
8 ワイルド・ハーツ
9 愛が分母
10 save it for sunny day
11 ヤア!ソウルボーイ
12 ロックンロール・ナイト
13 ヤング・フォーエヴァー
14 朽ちたスズラン
15 禅ビート
16 ポーラスタア
17 バイ・ザ・シー
18 東京スカイライン
19 La Vita e' Bella
20 エンターテイメント!
21 純恋(すみれ)
22 誰かの神
23 空港待合室
24 優しい闇
25 ニューエイジ
26 悲しきレディオ
27 サムディ
28 アンジェリーナ

E1 約束の橋

3月13日の佐野元春&ザ・コヨーテ・グランド・ロッケストラ_e0199046_23125373.jpg


# by obinborn | 2021-03-13 23:19 | rock'n roll | Comments(0)