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Last Order Please

緩和ケアチームの患者リストのなかに僕の希望欄があり、そこには「家で音楽(レコード)を楽しみたい」と書かれている。間違いなく僕が今望んでいること以外の何ものでもない。実際癌が見つかって以来この4年半、僕は基本的にそのように毎日を過ごしてきたし、これからの願いもそれくらいしかない。
昔はそれでもサブテキストを読みながら知識を蓄えたものだが、近年はもっとシンプルに音そのものと向き合う形だ。きっと病を経て何かを悟ったのだろう。10代20代の理屈は色褪せ、大袈裟なロジックは破綻し、最後に歌だけが残った。まるでそんな結論に導かれるように僕は楽な気持ちになった。マメにレコード盤を拭き、針を交換し、一枚一枚のアルバムを愛でた。
果たして一体「最後の日」はいつ訪れるのだろう。「小尾さん、明日がいよいよアウト・オブ・タイムですよ」とでも告げられるのだろうか。緊張する。これじゃまるで死刑執行を待つ囚人じゃないか。
幸いにも救いはある。僕が書いてきたものは後世に残る。あなたが示してくれた友情は、たとえ僕がいなくなっても消え去らない。温かい記憶だけがまるで5月の水面のようにキラキラと反射している。

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# by obinborn | 2023-09-22 17:08 | one day i walk | Comments(0)  

小尾隆が厳選した生涯のアルバム115枚!

好きなアルバム

チャック・ベリー『アフター・スクール・セッション』
ボ・ディドリー『ゴー』
チャンピオン・ジャック・デュプリー『ブルース・フロム・ザ・ガーター』
ボビー・ブランド『ヒア・ザ・マン』
ジュニア・パーカー『ドライヴィング・ホイール』
マディ・ウォーターズ『モア・リアル・フォーク・ブルース』
フリー『ハイウェイ』
ハンブル・パイ『サンダーボックス』
ジョン・メイオール・ブルース・ブレイカーズ『withクラプトン』
キャロル・キング『タペストリー』
ザ・シティ『夢語り』
ゲイリー・ゴフィン『正確には娯楽ではなく』
ボブ・ディラン『血の轍』
ディラン&ザ・バンド『地下室』
ティム・ハーディン『2』
ウォーレン・ジヴォン『デスペラード・アンダー・ザ・イーヴス』
アリーサ・フランクリン『フィルモア・ウェスト・ライブ』
ドノバン『ライブ・イン・ジャパン』
ダン・ヒックス&ヒズ・ホットリックス『ラスト・トレイン・トゥ・ヒックスヴィル』
クリーデンス『ウィリー&ザ・プア・ボーイズ』
リタ・クーリッジ『ナイス・フィーリン』
ニック・デカロ『イタリアン・グラフティ』
ディラード&クラーク『幻想の旅』
ベターデイズ『イッツ・オール・カム・バック』
エリック・カズ『イフ・ユーアー・ロンリー』
マイケル・ゲイトリー『ゲイトリーズ・カフェ』
ビル・ハウス『ギブ・ミー・ア・ブレイク』
『ジェシ・ウィンチェスター』
グラム・パーソンズ『G. P』
ニルソン『夜のシュミルソン』
『ボビー・チャールズ』
ヤング・ラスカルズ『グルーヴィン』
サー・ダグラス・クィンテット『メンドシーノ』
グレイトフル・デッド『アメリカン・ビューティー』
アル・クーパー『赤心の歌』
トッド・ラングレン『フェイスフル』
プロフェッサー・ロングヘア『ニューオリンズ・ピアノ』
アーロ・ガスリー『最後のブルックリン・カウボーイ』
トム・ウェイツ『土曜日の夜』
ランディ・ニューマン『グッド・オールド・ボーイズ』
『アメリカン・スプリング』
グレアム・グールドマン『シング』
ダニー・ハサウェイ『ライブ』
リンダ・ルイス『ラーク』
タージ・マハール『ミュージック・フ・ヤ』
『オハイオ・ノックス』
フィーヴィ・スノウ『ファースト』 
ジーン・クラーク『ホワイト・ライト』
ジム・パルト『アウト・ザ・ウィンドウ』
ポール・ジェレミア『ハード・ライフ、ロッキン・チェア』
ジョージィー・フェイム『スウィート・シングス』
『フルムーン』
ロリー・ギャラガー『アイリッシュ・ツアー』
ロビン・トロワー『ライブ』
フランキー・ミラー『ザ・ロック』
アラン・トゥーサン『サザン・ナイツ』
ラブ・ノークス『レッド・バンプ・スペシャル』
『アーニー・グレアム』
ドニー・フリッツ『プローン・トゥ・リーン』
エディ・ヒントン『ベリー・エクストレミイ・デンジャラス』
『ボズ・スキャッグス』(アトランティック)
ロジャー・ティリソン『アルバム』
アラン・ガーバー『アルバム』
ロン・ディヴィス『U.F.O』
ジェフ・ベック・グループ『オレンジ』
トラフィック『ジョン・バルレコーン・マスト・ダイ』
『スティーヴ・ウィンウッド』
アン・ブリックス『ザ・タイム・ハズ・カム』
ディック・ゴーハン『ノーモア・フォーエバー』
フェアポート・コンベンション『リージ&リーフ』
リチャード&リンダ・トンプソン『アイ・ウォント・シー・ザ・ブライテスト・ライト・トゥナイト』
サンディ・デニー『サンディ』
ブリンズリー・シュウォーツ『プリーズ、ドント・エヴァ・チェンジ』
ザ・ルーモア『マックス』
ドクター・フィールグッド『ダウン・バイ・ザ・ジェティ』
ジョン・スペンサーズ・ロウツ『ラスト・L P』
キンクス『マスウェル・ヒルビリーズ』
ロッド・スチュワート『ガソリン・アレイ』
ロニー・レイン『スリム・チャンス』
フェイシズ『ウー・ララ』
『グリース・バンド』
レオン・ラッセル『カーニー』
マーク・ベノ『雑魚』
デラニー&ボニー&フレンズ『モーテル・ショット』
ニール・ヤング『今宵その夜』
クレイジー・ホース『ルーズ』
ストーンズ『メインストリートのならず者』
『マナサス』
リトル・フィート『ファースト』
J.ガイルズ・バンド『ブロウ・ユア・フェイス・アウト』
ドクター・ジョン『ガンボ』
ヴァン・モリソン『ストリート・クワイア』
ザ・バンド『ブラウン・アルバム』
ロニー・ウッド『ナウ・ルック』
ケニー・ヴァンス『ヴァンス32』
スティーリー・ダン『プリッツエル・ロジック』
『ボニー・レイット』
クリス・スミザー『ドント・ドラッグ・オン・イット』
トニー・コジネク『バッド・ガール・ソングス』
ジョニ・ミッチェル『へジラ』
『サミー・ウォーカー』
ロブ・ガルブレイス『ナッシュビル・ダート』
トニー・ジョー・ホワイト『ザ・トレイン・アイム・オン』
『マイク・フィニガン』
スティーヴ・フォバート『アライブ・オン・アライヴァル』
ジョン・ハイアット『ブリング・ザ・ファミリー』
ライ・クーダー『パラダイス&ランチ』
ダスティ・スプリングフィールド『ダスティ・イン・メンフィス』
アン・ピーブルズ『アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン』
ビッグ・スター『No.1.レコード』
アレックス・チルトン『ハイ・プリースト』
ダン・ペン『ノーバディーズ・フール』
ローラ・ニーロ『ゴナ・テイク・ア・ミラクル』
カーレン・ダルトン『イン・マイ・オウン・タイム』

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# by obinborn | 2023-06-04 11:10 | rock'n roll | Comments(0)  

2月25日の木下弦二

「ハイウェイソング」からアンコールの「おいのりのうた」まで、澱みなく流れる川のように歌われるべき歌が歌われていく。25日はそんな木下弦ニのソロ・ライブを渋谷・国境の南にて。まるで馴染みのバーでカエターノやジョアンに耳を傾けるような贅沢な時間だった。
実際、平易な言葉が優れた音楽的技法によって逞しく運ばれていく感覚は彼らブラジル音楽に通じるだろう。それも単なる憧れとして洋楽を選ぶのではなく、自分の眼や耳を通した景色や物語として消化し、問い返していく。木下の場合、いつもそんな真摯さが伝わってくる。
僕はどちらかというと作らなくてもいい敵を作ったり、自ら檻を拵えてしまう厄介な性格なのだが、知らない土地を見渡していくような彼の歌はすべての防波線を取り去ってくれるようだった。

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# by obinborn | 2023-02-26 17:29 | one day i walk | Comments(0)  

2月14日の吉村瞳

オーティス・レディングの「アイ・キャント・ターン・ユー・ルーズ」からシスター・ロゼッタ・シャープの「ディドント・イット・レイン」まで、14日の吉村瞳はスライド・バーを多用したブルース色が濃い選曲で一気に畳み掛けていった。豊富なレパートリーを持つ彼女だけにライブは毎回一期一会みたいなものだが、今回は「カバー・ナイト」のシリーズということもあって、シンガー・ソングライターというよりは骨っぽい演奏が際立つ。
そんな意味ではJ.B.レノアーの「アイゼンハワー・ブルース」やボ・ディドリーの「プリティ・シング」もテーマに折り重なっていくような楽曲だったと思う。アンコールに用意されたインプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ」を含めて、その一つ一つが味わい深く、五臓六腑に染み渡るようなニュアンスがあった。
何でも春先には気心知れつつあるバンドと新しいアルバムのレコーディングに入るらしい。そこに収められるオリジナル曲を楽しみに待っていたい。
(2月14日・新橋アラテツアンダーグラウンド)

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# by obinborn | 2023-02-17 19:16 | one day i walk | Comments(0)  

追悼:バート・バカラック

デヴィッド=バカラックのコンビで反射的に思い出すのが、カーペンターズ「クロス・トゥ・ユー」やB.J.トーマス「雨に濡れても」あるいはジャッキー・デシャノン「世界は愛を待っている」といった楽曲だ。気品のあるメロディは当時中学生だった私に大人の世界を垣間見させた。復帰後のバカラックが作曲したものでは、クリストファー・クロス「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」が比較的新しいところだろうか。
エルヴィス・コステロとのコラボレートもあったが、基本的にバカラックは最後まで"非ロック"の人であり、それは同じ職業作家としてキャリアをスタートさせながらも、キャロル・キングがロックの世界に踏み込んでいったのと好対照を為したと思う。サウンドデザインもスモール・コンボではなく、あくまでオーケストレーションを念頭に置いていたようだ。バカラックの優雅さとはそういう旧世代の価値観を反映したものでもあるだろう。
これだけメロディが枯渇してしまった昨今の音楽シーンに故人が何を考えていたのかは知る術もないが、忘れ難い名曲の数々を今までありがとうございました。

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# by obinborn | 2023-02-10 09:14 | one day i walk | Comments(0)