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2月25日の木下弦二

「ハイウェイソング」からアンコールの「おいのりのうた」まで、澱みなく流れる川のように歌われるべき歌が歌われていく。25日はそんな木下弦ニのソロ・ライブを渋谷・国境の南にて。まるで馴染みのバーでカエターノやジョアンに耳を傾けるような贅沢な時間だった。
実際、平易な言葉が優れた音楽的技法によって逞しく運ばれていく感覚は彼らブラジル音楽に通じるだろう。それも単なる憧れとして洋楽を選ぶのではなく、自分の眼や耳を通した景色や物語として消化し、問い返していく。木下の場合、いつもそんな真摯さが伝わってくる。
僕はどちらかというと作らなくてもいい敵を作ったり、自ら檻を拵えてしまう厄介な性格なのだが、知らない土地を見渡していくような彼の歌はすべての防波線を取り去ってくれるようだった。

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# by obinborn | 2023-02-26 17:29 | one day i walk | Comments(0)  

2月14日の吉村瞳

オーティス・レディングの「アイ・キャント・ターン・ユー・ルーズ」からシスター・ロゼッタ・シャープの「ディドント・イット・レイン」まで、14日の吉村瞳はスライド・バーを多用したブルース色が濃い選曲で一気に畳み掛けていった。豊富なレパートリーを持つ彼女だけにライブは毎回一期一会みたいなものだが、今回は「カバー・ナイト」のシリーズということもあって、シンガー・ソングライターというよりは骨っぽい演奏が際立つ。
そんな意味ではJ.B.レノアーの「アイゼンハワー・ブルース」やボ・ディドリーの「プリティ・シング」もテーマに折り重なっていくような楽曲だったと思う。アンコールに用意されたインプレッションズの「ピープル・ゲット・レディ」を含めて、その一つ一つが味わい深く、五臓六腑に染み渡るようなニュアンスがあった。
何でも春先には気心知れつつあるバンドと新しいアルバムのレコーディングに入るらしい。そこに収められるオリジナル曲を楽しみに待っていたい。
(2月14日・新橋アラテツアンダーグラウンド)

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# by obinborn | 2023-02-17 19:16 | one day i walk | Comments(0)  

追悼:バート・バカラック

デヴィッド=バカラックのコンビで反射的に思い出すのが、カーペンターズ「クロス・トゥ・ユー」やB.J.トーマス「雨に濡れても」あるいはジャッキー・デシャノン「世界は愛を待っている」といった楽曲だ。気品のあるメロディは当時中学生だった私に大人の世界を垣間見させた。復帰後のバカラックが作曲したものでは、クリストファー・クロス「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」が比較的新しいところだろうか。
エルヴィス・コステロとのコラボレートもあったが、基本的にバカラックは最後まで"非ロック"の人であり、それは同じ職業作家としてキャリアをスタートさせながらも、キャロル・キングがロックの世界に踏み込んでいったのと好対照を為したと思う。サウンドデザインもスモール・コンボではなく、あくまでオーケストレーションを念頭に置いていたようだ。バカラックの優雅さとはそういう旧世代の価値観を反映したものでもあるだろう。
これだけメロディが枯渇してしまった昨今の音楽シーンに故人が何を考えていたのかは知る術もないが、忘れ難い名曲の数々を今までありがとうございました。

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# by obinborn | 2023-02-10 09:14 | one day i walk | Comments(0)  

臓器移植をテーマにした自作曲でグラミー賞を獲ったボニー・レイット

普段は殆ど意識することないグラミー・アワードだが、ボニー・レイットの受賞には心温まるものを感じずにはいられなかった。まず70歳を越えたシンガーでも未来への可能性があること。これはポップ音楽が10代向けにマーケティングされている日本とアメリカとの文化の差だろう。
次は滅多に自作曲を書かない(どちらかと言えば他人の曲の解釈に価値を見出してきた)レイットが、Just Like Thatというフォーキーなオリジナル曲で意外にも最優秀楽曲賞に選ばれる名誉を得たことが挙げられよう。とくに今回は臓器移植というシリアスなテーマを、脳死した息子を見守る母親の立場からソングライティングしたことが共感を呼んだ。
受賞時のレイットの様子や楽曲のニュアンスはそれぞれyou-tuで確認して頂きたいが、腐りまくったショウビズの象徴とも言えるグラミー・アワードであっても、このような審美眼があることに私は嬉しくなった。

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# by obinborn | 2023-02-09 07:47 | one day i walk | Comments(0)  

2月4日のサーディンヘッド

音が逞しく唸りを上げ、大地を揺るがす。あるいは影や静寂にひっそりと寄り添ってゆく。そんな動と静のコントラストも鮮やかな圧巻のライブだった。曲の骨子こそあれ、その日その時の閃きに委ねてインプロヴァイズするフリーフォームな演奏を身の上としているバンドならではの面白さを堪能した。
「お前またサーディンヘッドかよ〜」と言われても、毎回違う展開がある。まだ見ぬ明日のような新しい景色が描かれてゆく。ライブという一回性に賭け、全力投球していく彼らの姿が清々しく、帰りの電車までずっと余韻に浸った。

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# by obinborn | 2023-02-05 05:01 | one day i walk | Comments(0)