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2月20日

中村まりと笹倉慎介のツーマン・ライヴを中野のRAFTにて。

二人のジョイントは2010年6月の所沢MOJO以来およそ二年ぶりだが、
アーシーな表現に長けた中村にしても、柔らかい語り口が魅力の笹倉にしても、
彼らの音楽はたとえ時間が過ぎ去っても、そこに日溜まりだけは残っているような
感慨を抱かせる。こういう音楽は目指して出来るものではなく、きっと
日頃からどういうことに価値を見い出し、どういうものを愛でるのかといった
習慣に多くを負っているのではないだろうか。そして少なくともこの人たちには
ある種の辛抱強さがあるし、昨日見たものを今日反故にするような乱暴さが
いささかもない。

この日の中村は「How Sweet!」から始まり、「This Old Map」の緩やかな
ワルツや「Invisible Man」のブルージーな響きへと連ねていくという序盤の
構成から見事だったし、中盤のお楽しみであるカヴァー曲は彼女が師と仰ぐ
ミシシッピ・ジョン・ハートの「Slidin' Delta」とディランの「Mr.Tambourine
Man」が選ばれた。とくに着実なフィンガー・ピッキングさばきで何気に実力を
知らしめた前者の表現力には、約50人の聴衆が思わず息を呑むほど。

音楽の新しさや古さといったことについて、あるいは誰が旬のプロデューサー
で誰の音像が時代の様相を切り取っているとかについて、筆者の場合年齢ととも
に以前にも増して関心がなくなりつつある。ものすごく実感を言い当てるとすれ
ば、去年採れた蜜柑や林檎が今年もずっと美味しくあってくれればいい。その豊か
な土地で一年まえにあった樹木をこれから先もずっと見ていたいと思う。中村が
「Night Owls」と「Our Blue」を束ねていく終盤に感じるのは、いつもそんな
ことだったりする。

最後には中村と笹倉によるデュオでジェイムズ・テイラーの「Sweet Baby James」
とキャロル・キングの「You've Got A Friend」が歌われた。こういう場面での
中村のギター・リックも聞き逃せないものだし、二人の息のあった和声があった
からこそ、ぼくにはこの二つの古い曲がまるで今日の新しい歌のように響き渡った。

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(中野・哲学堂にて 2月21日)

by obinborn | 2012-02-21 21:47 | 中村まり | Comments(0)  

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