ロング・インタヴュー、谷口邦夫(下巻)

ーー78年には日本コロンビアに移籍してベターデイズ
・レーベルから3作め『Cruisin'』を発売しますが、
環境の変化などは感じられましたか。

 私はあんまり感じなかった。ソニーでニュー・ライ
ダーズを担当していたディレクターの柳生さんには、
「ライダーズみたいな音楽をやっています」ってバン
ド全員で挨拶に行ったことがあって、その彼がコロン
ビアに移ったということを聞いて、オレンジも移籍す
ることになったんです。その頃コロンビアには大滝詠
一や佐藤奈々子がいました。佐藤奈々子とはどこかの
野外ライヴで一緒になって、当時オレンジ全員のアイ
ドルだったマリア・マルダーに似てるね、ってステー
ジの袖からみんなでニヤニヤしながら観ていましたね
(笑)。大滝詠一さんとの思い出は『GO GO ナイア
ガラ』のレコ発ライヴが渋谷公会堂であって、駒沢裕
城さんとともにスティールを並べてバッキングで参加
したこと。オレンジは当時たくさんライヴをやってい
ましたから、とくに印象に残っている演奏を思い出す
のは難しいのですが、大きいコンサートでは夕焼け祭
りと春一番にそれぞれ二回ずつ参加しました。そうだ、
あと大阪の中之島公会堂でちょっと風変わりなコンサ
ートがありました。出演者は詩人の金子光晴、作家の
田中小実昌、紀伊国屋の田辺茂一そしてオレンジ・カ
ウンティ。お三方のおしゃべりコーナーのあと、我々
の伴奏で田中小実昌が「道頓堀行進曲」、例の〜赤い
灯、青い灯〜ってやつ。田辺茂一は「黒猫のタンゴ」
の替え歌で「茂一のタンゴ」。「道頓堀行進曲」のイ
ントロをスティールで弾いていると、マヒナスターズ
になったような気分でした(笑)。

☆☆☆☆☆「谷やんが最高のプレイをしたから俺も頑
張って歌ったんだ」って飯田くんが言ってくれた。あ
の時は嬉しかった。

ーー79年のスタジオ・ライヴ盤『Jump And Shout』
を最後の置き手紙のようにして、オレンジは一旦解散し
てしまいます。解散の原因を一言で言うのは難しいと思
いますが、時代もパンクやニューウェイヴが主流になっ
てきた頃のことでした。

 音楽をやっていてだんだん楽しくなくなってきてしま
った。聞いてくれるファンにとってはずっと大事に繋が
っていることでも、演奏している方には生活の問題があ
ったのが一番の原因かもしれません。サンディ&ザ・サ
ンセッツのように新しい波に乗っかれるバンドもいれば、
それが出来なかったバンドもいる。オレンジの場合はき
っと後者だったのでしょう。

ーーそれでも今なお熱心なファンがいたり、ザディコキ
ックスやコスモポリタン・カウボーイズなどオレンジの
遺伝子や匂いを受け継いだようなバンドがいます。

 ザディコキックスの西田(琢)くんなんかはまさに飯
田くんのお洒落な部分をそのままザディコに置き換えて
いるね。彼はオレンジが解散したあと、飯田くんのバン
ド、サイケデリック・カウボーイズにゲスト・フィドラ
ーとして参加してくれて、オレンジが復活して狭山のハ
イドパーク・フェスや、京浜ロック・フェスに出演した
時も彼が手伝ってくれた。安積が仕事の関係や家が遠く
て来れなくても「ニシダなら大丈夫!」って。たぶん彼
はオレンジの4枚のアルバムは全部頭のなかに入ってい
るんじゃないかなぁ。
 カウボーイズの(ハル)宮沢くんを初めて見た時は久
保田麻琴かと思った(笑)。彼がオレンジの曲を歌って
くれているのはすごく嬉しい。それに彼はハンク・ウィ
リアムスの曲に自分の日本語詞を付けるなど努力をして
いる。そうやってハンクの曲を自分の歌にしている。ま
さに「俺のハンクはこれだ!」っていう感じで、そうい
う匂いも飯田くんに通じているのかな。宮沢くんのカウ
ボーイズで叩いているドラムの東野りえさんの演奏スタ
イルも好きです。

e0199046_8224515.jpg

(ザディコキックスのギター&フィドル奏者、西田琢と。
80年代以降不遇続きだったオレンジを支えたのが彼だった。
2010年の10月、ジェフ・マルダー&エイモス・ギャレット
公演が行われた渋谷クアトロにて)

ーーオレンジ・カウンティ・ブラザーズという素晴らし
いバンドがありました。谷口さんが今振り返ってみて、
どんな感想をお持ちでしょうか。

 当時のライヴで私はペダル・スティールを後ろで座っ
て弾いていたのですが、飯田くんはギターの音がでかく
ってね(笑)。他のメンバーもみんなそう思っていたら
しい(笑)。ミュージシャンなんてギターでもドラムで
も自分が世界で一番だと思わなければやっていられない
ようなところがあるけれども、私の場合あの頃は懸命に
やるだけだったし、後からバンドに入ったという気持ち
が心のどこかにあったのかもしれない。それでもライヴ
の発掘音源集『Far East Swampers』(99年)が発売
された時、年月が経ってきたせいもあるのかもしれませ
んが、初めて自分の演奏を客観的に見ることが出来まし
た。自分のプレイが自分が思っていたほどしょぼいもの
ではなかったんだなと確認出来た時はやはり嬉しかった。
そこにはジミー・クリフの「Many Rivers To Cross」
が収録されていて、飯田くんが最高のヴォーカルを聴か
せているんですが、いつだったか飯田くんに「気合いが
入っているね」と言ったら、彼は「谷やんが最高のプレ
イをしたから、俺も頑張って歌ったんだ」と言ってくれ
た。あの時は本当に嬉しかったです。私の演奏では(78
年の秋に札幌で録音された)「Many Rivers To Cross」
がベストかもしれません。

e0199046_619522.jpg

(99年になって初公開されたオレンジの未発表ライヴ音源集。何より
もライヴ・バンドだった彼らの実力が隅々にまで息付いている)

ーーオレンジ以外の代表的なセッション・ワークを教え
て頂けますか。

 オレンジ以外で最初に行ったスタジオ・ワークはガロ
の最後のアルバム『三叉路』です。隣でしゃかしゃかと
マラカスをやっていて「うるさいなあ〜」と思ってクレ
ジットを見たら松崎茂でした。アイドルワイルド・サウ
スの最初で最後のアルバムに「憧れのジョージア」って
いう曲があるんですが、そこでもペダル・スティールを
弾いています。細野晴臣さんの『泰安洋行』では「ポン
ポン蒸気」に参加しました。
 オレンジが解散してからは、札幌のリンダ・ロンシュ
タドと呼ばれていた宮田あやこの『Lady Mockin Bird』
、久保田麻琴のソロ『On The Border』のなかの「Me
And Bobbie Maggie」、最近では東京ローカル・ホンク
の「遠い願い」でペダル・スティールを弾かせてもらい
ました。もっとも彼らと一緒にシンガポールまで行った
わけではなく、(プロデューサーである)麻琴ちゃんに
呼ばれてオーバー・ダビングしたんですが、京浜ロック
でも共演させてもらいました。東京ローカル・ホンクは
奇跡のように素敵なバンド。もっと売れたらいいなぁと
思います。

ーー谷口さんのお好きなペダル・スティール奏者を教え
てください。

 高校時代、まだスティールを演奏するようになるまえ
に、はっぴいえんどの「空色のくれよん」で弾いていた
駒沢裕城さんや、CSN&Yの「ティーチ・ユア・チルド
レン」に参加していたジェリー・ガルシアのイントロが
印象に残っています。
 昔バック・オウエンズのバッカルーズで弾いていた、
リック・ネルソンのストーン・キャニオン・バンドのぺ
ダル奏者、トム・ブラムリーの明るくて気持ちいいステ
ィールが好きです。イアン・マシューズのバンドで弾い
ていたゴードン・ハントレーは確か「サイオン」という
曲で音数は少ないんだけど印象に残る演奏をしていまし
たね。あとはやはりバディ・ケイジです。ニュー・ライ
ダーズの『Powerglide』は衝撃的でした。エイモス・
ギャレットと一緒にやっていたグレイト・スペックルド
・バード時代に、すでにあの奏法をマスターしていたの
にもびっくりしました。彼らが70年に大阪万博で演奏し
た音源も一部で出回っていますよね。あの人はナッシュ
ヴィル的な仕事はしていないようだし、ポップなフィー
ルドに引っ掛かってくるわけでもないので、どうやって
生活しているのか? バディは基本的なピッキングはカ
チッとしていて全くレイジーではないんだけれども、ガ
ルシアと同じでコード進行に縛られない、空中を飛び回
っているみたいな自由なフレーズが特徴です。彼のよう
に演奏出来たら楽しいだろうな、って思わせてくれる。
あとは最近You Tubeで見つけたアイリッシュのペダル・
スティール奏者のデヴィッド・ハートレーが気になりま
す。

e0199046_1111329.jpg

e0199046_11532792.jpg

(不定期ながら近年も活動を続けるオレンジ・カウンティ。下は06年9月
に狭山で行われた第二回ハイド・パーク・フェスに出演した時のステージ)

ーー今日はお忙しいなかどうもありがとうございました。
最後の質問ですが、生涯のフェイヴァリット・アルバム
を5枚ほど選んで頂けますか。

 こちらこそありがとうございました。小尾さんが『F
ar East Swampers』のアルバム・レヴューでありがた
いことを書いてくださり、それでこの人に会いに行って
みようと思ったのが最初でした。ライヴ会場でもしょっ
ちゅうお会いしてますね(笑)。
 好きなアルバムを5枚選ぶのはとても難しいのですが、
ビートルズの『セカンド・アルバム』とジェイムズ・テ
イラーの『マッド・スライド・スリム』はやはり入れた
いです。あとはアーロン・ネヴィルの『ソウルフル・ク
リスマス』、高校生の頃”ゆでめん”よりも先に買った
はっぴいえんどの『風街ろまん』、そしてダグ・サーム
ですね。ダグはCCRのリズム隊が入った『グルーヴァー
ズ・パラダイス』にしようかな、それとも『ジュークボ
ックス・ミュージック』にしようかな。オレンジが「Ho
key Pokey」でリフを借用させてもらった「ニッティ・
グリッティ」が入っている『テキサス・トルネード』も
ダグのなかでは好きな作品です。あと一枚いいですか?
ジョン・セバスチャンの『ターザナ・キッド』も忘れら
れない大好きなアルバムです。(了)


取材・文:小尾 隆
質問協力:多加谷茂
(6月6日 池袋:ポルカドッツにて)

e0199046_1551275.jpg

[PR]

by obinborn | 2012-06-17 06:01 | インタヴュー取材 | Comments(0)  

<< ロング・インタヴュー、谷口邦夫... 6月10日 >>