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1月25日

木下弦二の歌を聞いていると、自分が丸裸にされていく。
彼の歌を聞き終わった夜は、いつもと同じ帰り道が少しだけ弾んで
見える。そしてぼくを無邪気だった日々へと連れ戻していく。

別に彼は凝った歌詞を書くわけではないし、流行のサウンドスケープ
を取り込むわけでもない。それでも最後には弦ちゃんの歌を聞いたな〜
という感慨が押し寄せる。そう、まるで沸き立ついわし雲のように。
まるで海の底にいる生きもののように。

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平易でコンサバな情感と言っては身も蓋もないが、それでも彼は
身の周りで息をしているものにしっかりと耳を傾け、小さなもの
や、目に見えにくいものへとそっと心を寄せる。それはあまたに流布
するメッセージ・ソングとやら、大言壮語だけの空疎なロックとやら
とはどこまでも対照的だ。ジョアン・ジルベルトの優雅なボサノバで
さえ、木下は「冬眠」という自作曲として彼自身の暮らしへと置き換
えていく。

そんな木下の歌とギターが、彼の良き理解者である佐藤克彦のラップ・
スティール(ときどきアコースティック・ギター)と、その場その瞬間
に交差し合い、互いに楽器同志で微笑みあい、会話していくのだからた
まらない。

「生きものについて」から「おいのりのうた」まで。そしてアンコール
では、インストゥルメンタルの「冬の便り」がそっと余韻を残していく。
陽気な歌がもたらす悲しみ。あるいは明るい歌が映し出す影。そんなこ
とまでに思いを馳せた下北沢・ラフテアでのライヴ演奏。むろん帰りの
ぼくは幸せだった。こんな時間がいつまでも続けばいいな、と思ってい
た。

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by obinborn | 2013-01-26 01:51 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

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