新しい人の古い歌
を。十日ほど前に中村のソロを観たばかりだが、こうして短い
期間のなかで彼女の歌の違う演奏を目の当たりにすると、一人
の場合ともう一人のギターが併走する時とで微妙にニュアンス
異なることが手に取るように解る。ここ数年の中村といえばロ
ンサム・ストリングスとの共同作業がメインだったものの、安
宅浩司は古くから中村とライヴやレコーディングをともにして きた仲間の一人。さすがに息の合ったプレイを聞かせる。
「A Brand New Day」に始まり「Night Owls」に終わるという
近年の黄金律のなかに「Through My Heart Again」や「Hol d My Little Hand」といった新曲を少しずつ加え、さらに
サム・マギーやブラインド・ブレイクそしてチャーリー・プ
ールらの”アメリカーナ”を挟んでいく選曲は、いつ聞いてもなだ
らかに回る丘陵のようなリズムのうねりを醸し出していく。
クアトロのステージも普段と異なり、前面に特別セッティング
した小振りな舞台を半円形で客たちが囲むという親密さで功を
を奏していた。
思えばまだ若い日本人女性が英語詞の自作曲に加え、1920年
代や30年代に親しまれたフィールド・ソングの数々を同時に
歌うというのは、21世紀の今にあって特殊なことなのかもし
れない。それでも中村の歌が少しも不自然さを感じさせないの
は何故だろう。きっとそれは歴史の学習や研究の対象としてで
はなく、彼女がかつてあった暮らしや人々の喜怒哀楽に思いを
馳せ、寄り添うように歌を歌っているからだろう。
終盤に置かれた「Going Back To My Home」では汽笛を模した 彼女のハーモニカがとくに素晴らしく、その余韻を「Night
Owls」がどこまでも静かに受け止めていく。そのせいかど
うか、帰りに歩く渋谷の街がまるで張りぼてのように映ってし
まった。
by obinborn | 2013-08-01 23:43 | 中村まり | Comments(0)