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蛇行する月

名もない市井の人々の暮らしに光を当て、日々を懸命に過ごす
登場人物たちを映し出す。桜木紫乃さんの小説はそんな魅力に
溢れている。主人公たちの年齢は様々であり、また一人の人物
が若かった頃から現在までの姿までを追う筆さばきも見せてい
る。多くの作品に共通するのは煩悶し逡巡を繰り返す彼らや彼
女らの姿だ。

桜木さんが実際に暮らす北海道に舞台を徹底しているのもいい。
夏は短く冬は気が遠くなるほど長い。恐らく閉じ込められてい
るという感覚はぼくが住んでいる東京よりずっと切実なはず。
そんな厳しい土地の匂いに加えて、地方の停滞した経済や朽ち
いくばかりの風景が重なる。道内の描写に優れた作家としては
他に佐々木譲さんがいる。彼もまた長い冬と触れ合う優れた書
き手であろう。

暮らしている場所が狭ければ狭いほど人間同士の関わりは密に
なり、それが時には煩わしくもなるだろう。それでも彼女の作
品を支えているのは無名であることの愛おしさだと思う。『蛇
行する月』や『起終点駅(ターミナル)』を読み終わって、ぼ
くは幾つかの勇気とともにそんなことを思った。

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by obinborn | 2014-01-28 22:13 | 文学 | Comments(0)  

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