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柴崎友香『春の庭』を読んで

ぼくも読みましたが、本当に素晴しい作品だと思いました。
芥川賞受賞の会見でも言及されていますが、とくに終盤に
人称がこれまでの太郎から(姉である)私へと入れ替わる
部分には視界がパッと入れ替わるような目眩を覚えました。
この『春の庭』に出て来る登場人物たちは何も特別な才能
の持ち主とか恵まれた環境にいるとかではなく、ぼくたち
の周りにいくらでもいる普通の人々なのですが、そんな彼
や彼女らが内面に壊れやすいものや温かい記憶をそっとし
まいこみながら日々を暮らしていることが、次第に明らか
になっていきます。舞台は東京の世田谷区にある何の変哲
もない町並みなのですが、朽ちていくものもあれば新たに
立ち現れる光景もあります。いわば過去と現在そして未来
の縮図であり、作者の柴崎さんはそれらの”動かない物語”
を辛抱強く定点観測しながら、抑制されたタッチで書き留
めていきます。そしてぼくたち読者はいつか気が付くので
す。土地は動かないけれども人々は入れ替わっていくと。
たとえ外側からは見えにくいとしても、人にはそれぞれの
傷蓋があるのだと。

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by obinborn | 2014-09-04 17:46 | 文学 | Comments(0)  

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