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歌ってよ、フィービー

一人のリスナーとして魅力的だなと思える音楽は、やはりジャンル
を軽々と跨いでいるような演奏家によるものだ。それも出来ること
ならば自然な佇まいを感じさせるものがいい。なかにはかなり意図
的なミクスチュア・ロックもあるけれど、あらかじめ奇抜さを狙っ
たような演奏には心が動かない。フィービー・スノウのデビュー・
アルバムを久し振りに聞き直してみて、そんなことを思わずにはい
られなかった。ギターを抱えながら歌う女性シンガー・ソングライ
ターはそれまでもある程度いたと思うが、それはおおむねフォーク
の範疇に収まるものであり、ジョニ・ミッチェルのような複雑な和
声を活かしながら、やがてフュージョン畑のプレイヤーたちと手を
携えて歩みを進めていった人はあくまで例外だった。

そんな環境のなか73年に制作されたフィービーのアルバムは何から
何まで新鮮だった。サム・クックのGOOD TIMESが一曲めに置かれ
てパースエイションズのコーラスが絡んでくる展開はまるでR&Bの
ようだし、続くHORPO'S BLUESではテディ・ウィルソンのピアノ
にズート・シムズのテナー・サックスと古き佳き時代のジャズメン
を起用するといった具合だ。だいいちフィービー自身が奏でるアク
ースティック・ギターがリズミカルというか、心地好いシンコペイ
ションに彩られていた。グリニッチ・ビレッジのフォーク・クラブ
やコーヒー・ハウスで歌っていた”フォーク姉ちゃん”の音楽背景を
思わずにはいられない。

曲の性格によってウッド・ベースとエレクトリック・ベースとを、
しっかりと冷静に使い分けているのも流石。半分はプロデュース
やエンジニアリングを務めたディノ・エアリなりフィル・ラモー
ンの指示なのかもしれないが、そこにはフィービーの音楽を伝える
にはどうしたらいいのだろうか?という第三者の優れた眼差しが伺
える。75年の2月に全米5位!に輝いたシングル・ヒットPOETRY
MANにしても、曲の骨格を支えているのがチャック・デルモニーコ
の深い一拍を伴ったウッド・ベースであったことに、今さらながら
感嘆したりして。

ニューヨーク生まれの彼女を盛り立てるべく、ボブ・ジェイムズや
ラルフ・マクドナルド、ヒュー・マクドナルドといったフュージョ
ン・フィールドの演奏家たちが東海岸ならではの粋を尽くす。アク
ースティック・ギターの相方としてデヴィッド・ブロムバーグが
EITHER OR BOTHでフィービーと会話する。アルバムを締めるNO
SHOW TONIGHTでエレクトリックの躍動するソロを繰り出すのは
デイヴ・メイソンだ。1973年、ニューヨークのA&Rスタジオには
きっと奇跡のような瞬間が幾度となく訪れたことだろう。

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by obinborn | 2014-10-17 18:41 | one day i walk | Comments(0)  

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