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中村まり『Beneath the Buttermilk Sky』LP盤の発売に寄せて

先日のラカーニャでも会場販売していた中村まりのアナログ・レコード『Beneath the Buttermilk Sky』を聞いていると、アルバムとしての起承転結がCDよりもはっきり伝わってくる。むろんCDのシークエンスであったとしてもそうした起伏というか流れを感じていたが、AB面がくっきりと分かれた構成によって、一曲ごとの印象がさらに強まった気がする。今から5年前の09年にリリースされた彼女のセカンド・アルバム(自主制作盤は除く)だが、こうしてLP化された意義は少なくない。

ご本人もMCで「元々デジタル・レコーディングされたものですから正確にはアナログ録音ではありません」との旨を話されていたし、それは確かにその通りなのだが、ぼくはオーディオ的な尺度よりも前述したようにアーティストの意図がより汲み取れるという意味で嬉しくなった。実際の音にしてもCDよりも全体のニュアンスが温かく包み込まれるような感じで、普段接しているライブでの生々しさに似ている。

それでも弾き語りのソロなり2〜3人の演奏者なりを帯同した中村の通常のステージに比べると、フィドルなりベースなりドラムスなりと音数が僅かに多いことに気が付く。これはやはりスタジオ・レコーディングならではの届け方だと思う。けっしてシンプルさを損なっているわけではない。それぞれの楽器が控えめに歌を守り立てながら、ちょっとだけ彩りを増しているといった印象だ。ミシシッピ・ジョン・ハートのヴァージョンを参照した伝承曲「Lonesome Valley Blues」が終わると、ソングライターとして彼女が思いの限りを込めた名曲「Night Owls」が静かに滑り出し、松永孝義のコントラ・バスと部分部分での弓弾きが歌を支える。そしてB面ラストにはエンドロールのように「Going Back To My Home」が置かれている。そうしたアルバム後半を連ねる3曲を取り出してみるだけでも、曲と曲との間に音のないドラマがあり、それを感じてくださいとでも言いたげな中村まりというアーティストの心映えがくっきりと浮かび上がってくる。終曲「Going Back To My Home」がいったん終わり、わりと長い無音の時間を経てからインストゥルメンタル版で「This Old Map」が僅かにリプライズされていくことを思えば、なおさらだ。

CD版がリリースされてからの5年間を振り返ってみると、ちょうど自分が中村のライブに通い始めた時期と重なることもあって、様々な思いがよぎる。ソロ活動とは別のロンサム・ストリングスとのコラボレイトがあり、松永孝義との永遠の別れがあり、千ケ崎学という素晴しいベース奏者との出会いがあった。中村まり自身も「HoldMy Little Hand」「When The Day Is Over」そして「Still In The Sun」といった新曲をリストに加えてきている。そう、時間はけっしてそこに留まることなく前進している。そんなことに考えを巡らせていると、一曲めに置かれた「A Brand New Day」がより輝きを増してゆく。

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by obinborn | 2014-12-27 01:56 | 中村まり | Comments(0)  

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