アラン・トゥーサン『サザン・ナイツ』
のことは今でもよく覚えている。購入したのは南青山のパイ
ド・パイパー・ハウス。今や伝説として語られている輸入盤
ショップだが、ドクター・ジョンの『GUMBO』とともに、
この種類の音楽はきちんと日本盤も常備されていたのだった。
実際トゥーサンの名を広く知らしめたアルバムであり、今回
再びワーナーからCD化されたことを嬉しく思う(U.S盤LPに
施されていたエンボス仕様までは無理だったけど)
エキゾチックな表題曲SOUTHERN NIGHTSはご存知の方も多
いことだろう。夏の夕暮れ時を愛犬とともに散歩していたら
思わず異界に誘われてしまった。プッシュピン・スタジオの
ジョージ・スタヴリーノが手掛けたジャケット通りのイメージ
が膨らんでいく。見つめた先はミシシッピの大河だろうか。夜
の森林からは樹木の匂いが立ち込め、虫たちの鳴き声が響き渡
る。SOUTHERN NIGHTSはそんな甘美な誘惑に満ちている。
トゥーサン自身、このアルバムを同じシークエンスで再現する
ライブを行ったことがあるくらいだから、本人の思いも深いの
だろう。実際曲と曲の間が幾つかの効果音やSOUTHERN NIGH
TSのヴァリエーションで繋がれているほど、当初からトータル
な構成が何気に意識された作品であった。アメリカ合衆国がフ
ランスからルイジアナの土地を買い取った際、政府関係者は「
安い買い物だった」と豪語したそうだが、その土地のクレオー
ル文化がやがて音楽のケメストリーを生み出すとは、歴史とは
皮肉なものだと思わざるを得ない。
単にR&Bやファンクを洗練させた現代版というよりは、ヨーロ
ッパ音楽の名残りを留めた優雅な旋律、抑制された歌、ゆった
りとしたサウンドに今なお心奪われてしまう。アルバムの冒頭
はLAST TRAINから始まる。そこから広がっていく音楽の旅は、
子供の頃に見た夢の続きなのかもしれない。
by obinborn | 2015-06-09 19:08 | one day i walk | Comments(0)