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『昭和の犬』

犬との暮らしを通して時代背景が浮かび上がってくるような
『昭和の犬』を読んだ。作者の姫野カオルコさんが私と同い
歳ということもあり、あの時代の地方での暮らしぶりはこん
なものだったねと頷かされもしたし、全体としては姫野さん
の半生を辿る自伝的な色合いが強い。けっして裕福だったわ
けではなかった時代だが、彼女と飼い犬との会話はまるで昨
日のことのように生き生きと語られている。正確には会話と
いうよりは匂いや肌ざわりといったものだろうか。ときに父
親がシベリアに拘束されていた時代や、必ずしも幸福ではな
かった母親の結婚生活も仄めかされるが、あくまで騙し絵の
ようなものであり、テーマに結び付く伏線とはけっしてなら
ない。

私は大きなテーマに頼ったり、ことさら意味性を訴える小説
を好まない。いや、昔はそういう社会ドラマのような作品を
三浦綾子から山崎豊子まで読んでいた時期があったので、必
ずしもポリシーがあるわけではないのだが、経年とともに、
文体それ自体の美しさとか、完結することのない抽象性のほ
うにより惹かれるようになった。音楽でいえば大袈裟なプロ
グレではなく、シンガー・ソングライターのような味わいか
もしれない。世の中の不公平や欺瞞や差別に立ち向かってい
く表現が好きな方には物足りないだろうが、『昭和の犬』に
は子供や動物の眼を通して見る世界があり、主人公の背がや
がて伸び、大人になってから感じるものまでが年代記(クロ
ニクル)のように描かれている。言うまでもなく犬好きの方
はマスト。思えば今日も人間とばかり会話していた。

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by obinborn | 2015-08-26 02:10 | 文学 | Comments(0)  

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