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木下弦二『natural fool』

木下弦二はいつも二つのことを強調する。一つはロック的な
価値観から離れてみて初めて自分の音楽が見えてきたこと。
もうひとつは彼にとって歌は自分の目で見る”窓”であること
だ。最初は誰もが洋楽の模倣から何らかの音楽活動を始める
のだろうが、そんな無邪気な日々はいつまでも長く続かない。
借り物の表現にはおのずと限界があり、歌の作り手たちはそ
こで壁にぶつかるからだ。この8年あまり木下弦二のステージ
やオフに触れてきて、今ぼくが思い起こすのはそんな彼の言
動である。弦二はこんな風に述懐する「ある日突然気が付い
たんです。ロック的なカッコ良さを求めていた自分は何てカ
ッコ悪いんだろうって」

そんな木下弦二にとって初めてのソロ・アルバムが『natural
fool』(2016年2月発売)だ。自分という窓から歌をスケッチ
しているという意味でも、飾らない言葉がすくっとこちらの胸
に降りてくる。起承転結のあるドラマやら暑苦しいメッセージ
やらを押し付けるのではなく、彼は歌という”窓”を借りて問い
掛ける「想像してごらん」と。歌われる言葉は簡素だが奥行き
があり、聞き手が重ねた歳月や経験によって幾多の色を自由に
塗っていける余白を残している。また優れた共演者たちが弦二
の介在役となることで一曲のなかで遠近法が可能になり、歌に
静かなケメストリーが生まれた。そのことを祝したい。

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by obinborn | 2016-01-25 19:27 | 東京ローカル・ホンク | Comments(0)  

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