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ポール・カントナーと「木の舟」

ポール・カントナーの訃報に接して反射的に思い浮かべたのが
Wooden Ships(木の舟)だった。ジェファーソン・エアプレイ
ンが69年にリリースしたアルバム『ヴォランティアーズ』に
収録されたこの曲は終末思想を歌ったもので、この汚染された
地球を離れ僕たちは木の舟で旅立とうといった内容になってい
る。いかにも当時のヒッピーらしい願望が夢幻的なサウンドと
もに奏でられ、カントナー、スリック、バリンと入れ替わるヴ
ォーカルも曲の表情を豊かにしたが、選民的な現実逃避ではな
いか?という批判もあり、ジャクソン・ブラウンが同曲に反発
して「For Everyman」を書き上げたことは広く知られている。
実際筆者がジャクソンにインタヴューした時も、彼はヒッピー
的なコミュニズムに懐疑の念を抱き、もっと現実を見つめなき
ゃいけない、しっかり社会に目を向けよう!とひどく真剣に語
っていた。カントナー、クロスビー、スティルスの三人が共作
したこの「木の舟」は一般的にはCS&Nのヴァージョンのほう
で親しまれているだろうか。少し気になって『CS&N』のアル
バムを取り出してみたら、カントナーの名前がクレジットされ
ず、単にクロスビー=スティルスのみの表記になっていて驚い
てしまった。些細なことかもしれないが、こんな点にもヒッピ
ー的な夢と音楽ビジネスという現実との落差が現われているよ
うで心が痛い。個人的にはジェファーソン自体よりは離脱組で
あるキャサディとコウコネンによるホット・ツナに肩入れして
いたのでカントナーはあまり意識していなかった。それでもス
リックとともにジェファーソンを旗揚げしたカントナーの退場
に寂しさを覚えずにはいられない。筆者がリアルタイムで接し
たのはスターシップと改名してから。スターシップに関しては
どんどん産業ロック的な音作りになってしまったが、75年の
『レッド・オクトパス』や76年の『星船〜スピットファイア』
辺りはまだ往年のシスコ・サウンドらしい自由な気風、おおら
かなノリ、音楽で結ばれた友情のようなものがあり、本当によ
く聞いたものだった。そうそう、映画『オルタモントの悲劇』
で暴徒化するヘルス・エンジェルズを必死になだめようとして
いたのはカントナーではなかっただろうか。そんなことを突然
思い出したら涙がこぼれてきた。


by obinborn | 2016-01-29 15:06 | rock'n roll | Comments(0)  

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