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服部高好氏の労作『アンシーン・アンド・アンノウン』に寄せて

名古屋在住の音楽研究家、服部高好氏が『アンシーン・アンド・
アンノウン〜アンサング・ヒーロー達から聴こえる米国ルーツ
音楽』を上梓された。A4サイズ・全400ページというヴォリュ
ームも凄いが、それ以上に氏が長年に亘って温めてきた構想、
及びその広範な音楽体験のうねりが伝わってくる点に圧倒され
る。

『アンシーン・アンド・アンノウン』(Unseen And Unknown)
という書籍タイトルを聞いて、アーカンソー出身のオルガン奏者
ベイビー・フェイス・ウィレットのアルバム『モー・ロック』
(64年)に収録された同名曲を思い起こす方は、どれくらいい
らっしゃるだろう? 実際に服部氏はウィレットに一章を割くほ
ど、この余り知られていないプレイヤーに熱量を込める。そんな
”知られていない、無名の音楽家”に温かい視点を注ぎ、ジャンル
や時代を軽く超えながら、アメリカ(とイギリス)の音楽を俯瞰
したのが本書である。

リトル・ジョニー・ジョーンズを切り口にしながらマディ・ウ
ォーターズやハウリン・ウルフとの接点を探る。一般的にはハ
ングリー・チャックのメンバーとしてのみ語られがちなジム・
コルグローヴのキャリアを丹念に調べ上げ、その”知られざる”
姿を現在の地点までリサーチする。あるいは英国のロックパイル
を俎板に乗せながら、ジョー・テックスやキップ・アンダーソン
のR&B/ソウルを語る。さながら音楽マニアの友だちとレコード
を聞きながら、ワイワイと楽しく会話しているような趣だ。

結局こうした良書が既存の音楽出版社から出ない(出にくい)
ところに現在の音楽業界が抱える不幸を感じてしまう。服部
氏のこの労作、残念なことに一般的な販売ルートには乗らない
「私家版」である。それでも彼の情熱に勇気付けられる音楽ファ
ンは少なくないはず。スター(大物)志向、リジェンド志向を
強めるばかりの書籍編集者たちに反省を促し、ルーツ音楽を
愛する者たちに歓迎される。そんな究極の一冊だと思う。

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by obinborn | 2016-11-13 09:13 | one day i walk | Comments(0)  

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