ハリー・ニルソン『夜のシュミルソン』を再訪する
今まで日本盤で親しんできた『夜のシュミルソン』の
U.K盤を購入した時は嬉しかったです。ゴードン・ジェ
ンキンスが39名にも及ぶオーケストラを指揮したこの
スタンダード集は、発売された73年当時大きな話題を
呼び起こしました。元々ニルソンはオールドタイムの
匂いが色濃く立ち込めるSSWでしたが、いよいよ本格
的にアービング・バーリンの「Always」やシルヴィア
・ファインの「Lullaby Of Ragtime」といった古き佳き
日の映画や演劇音楽に取り組んだのですから、普通の
ポップやロックを聞くようにニルソンに接してきた人
たちに驚きと新たな発見をもたらしました。
今日こそボブ・ディランがスタンダードの三部作を発
表し、それが優しく許容されている時代ですが、ニル
ソンが本作をリリースした73年当時は必ずしも好意的
に評価されたわけではありません。それでもこのアル
バムは心あるロック・ファンのなかで語り継がれてき
ました。それはミュージシャンにとっても同様だった
ようで、以降カーリー・サイモンの『トーチ』やドク
ター・ジョンの『イン・ア・センチメンタル・ムード』
といった優れたオーケストレーション・アルバムを生
み出すための種を蒔いていったのです。
同時代のフォークやロックだけではなく、自分の両親
あるいは叔父や叔母が親しんできた”古い音楽”に触れ
てみる。当時の時代背景を想像してみる。そんなニル
ソンの心映えこそを感じ取りたいものですね。なお本
作の続編として、88年には『A Touch More Schmilss
on In The Night』が発売されました。これは『夜のシュ
ミルソン』で没にされたアウトテイクや惜しくも『夜』
の候補から外されてしまった未発表曲からなる作品集で
す。
それでも完成度はかなりの水準であり、73年の3月15日
から22日までロンドンのCTSミュージック・センター
で行われたレコーディングがいかに充実していたかが
良く解ります。弦楽器の繊細なピチカート、ホーンズ
の控えめではあるけれど豊かな鳴り、そしてハリー・
ニルソンの天使のようなヴォイシング。それらは毎日
繰り返される辛い労働の対価となり、処方箋となり、
そして満天に輝く星々の如く、傷付いた多くの人々の
心に寄り添っていきます。そう、すっかり崩れバラバ
ラになってしまったパズルを紐解くように。
by obinborn | 2017-06-30 17:42 | one day i walk | Comments(0)