長門芳郎氏の著作『パイドパイパー・デイズ〜私的音楽回想 1972-1989』を読んで
読んでいて妙に切なくなった。シュガー・ベイブのマネジャー
から輸入レコードショップの店主、あるいは海外アーティスト
の招聘まで活躍されてきた長門芳郎氏の回想録が『パイドパイ
パー・デイズ』(リットーミュージック 2016年)である。音
楽好きの青年が故郷を離れ上京し、やがてある種の洋楽の指南
役となっていく。そんな過程がご本人の飾らない文体で書き留
められている。サブ・タイトルに「私的音楽回想 1972-198
9」とあるように、長門氏と同時代を生きた人々が思いを重ね
ることは多々あるだろう。
ラヴィン・スプーンフルやローラ・ニーロに夢中になり、それ
をきっかけに業界に入った青年が、いつしか80年代に起こった
バブルの影響で地上げの問題に遭遇し、「パイド」があった南
青山の地から立ち退きを余儀なくされる。そんな過程のひとつ
ひとつを激動の昭和史と重ねても問題はあるまい。amazonに
代表されるネット販売に慣れている今時の若い方々には、かつ
てパイドやその他多数の輸入レコード店で交わされていた生き
生きとした情報交換や気取らないお茶話が新鮮に映るのかもし
れない。個人的にもパイドにはよく通った。午後の講義が終わ
ればパイドに行き、ドクター・ジョンの『ガンボ』やアラン・
トゥーサンの『サザン・ナイツ』を買った。吉祥寺の中道商店
街にあった芽瑠璃堂とともに、この2店はぼくにとってまさに
”スクール”に他ならなかった。閉店直前の89年にパイドで買っ
た最後のレコードは、ブライアン・ウィルソンの12インチ・
シングルLove and Mercyだったかな。
今や伝説的なショップとして語り継がれているパイド。初代の
経営者である岩永さんがかつて晶文社から出された書籍と本書
を併読していけば、70〜80年代の東京をより俯瞰出来るかもし
れない。
by obinborn | 2018-02-11 19:20 | one day i walk | Comments(0)