遥かに、清志郎へ

RCのライブを最初に観たのは80年の11月。江古田にある
武蔵大学の講堂だった。ライブ・アルバム『ラプソディ』
が発売されたのが同年の6月だったから、まさにブレイク
寸前の出来事だった。清志郎がMCで10月に発売されたば
かりのシングル「トランジスタ・ラジオ」を「新曲です!」
と紹介しながら歌い始めたことが忘れられない。翌年にな
ると日比谷野音を満員にし、やがて武道館公演へと漕ぎ着
けるほど彼らの人気はうなぎ登りになっていったが、その
少し前には学園祭に出演する”ちょっとした仲間”に過ぎな
かったのである。フォーク・トリオ時代のRCを知っていた
僕にとって、彼らのロック・バンドへの変貌とグラム・ロ
ック風の奇抜なメイクは衝撃だった。それでも「エンジェ
ル」のようなバラードは、かつての「甲州街道はもう秋な
のさ」や「ヒッピーに捧ぐ」を自然と思い起こさせた。ま
たロックといっても、RCの場合はメンフィス・ソウルのミ
ッドテンポを基調にしていた。パンクのファストなビート
とは最初から規範が違っていた。そのミッドなグルーヴに
満ちた「きみが僕を知ってる」が好きだった。”女と寝てい
る奴より気持ちいい”というロック賛歌「気持ちE」の強が
りの向こうに、無口な青年の姿が覗いていた。

あれはいつのことだっただろうか。一度だけ国分寺の駅を
降りて、多摩蘭坂を訪れたことがある。確か夏の暑い日だ
ったと記憶する。空は澄み渡り、風が爽やかに頰を撫でる
午後だった。清志郎が見ていた風景をどうしても自分の目
で確かめたかった。周りの草いきれの匂いを感じたかった。
歩いてみると何の変哲もない通り道だったが、それ故に彼
が拾い集めたイメージの断片が浮かび上がり、刺さった。

音楽家の縁の土地を訪ねて涙を隠したのは、その時が初め
てのことだった。


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by obinborn | 2018-06-23 19:02 | rock'n roll | Comments(0)  

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