6月16日のテデスキ・トラックス・バンド
開演前の会場ではクリーデンス、スライ、ディランなどが
流されていた。懐かしく、ちょっと照れくさいような感覚
だ。そんなBGMの数々がごく自然に本編のライブへと連な
ってゆく。まるで60年代後半と2019年とが互いに微笑み合
うような光景だ。こうして16日の東京ドームシティホールで
のテデスキ・トラックス・バンド公演は始まった。新作『
Signs』を出したばかりの彼らだが、そのアルバムからの曲
に偏らず、トータルに自分たちのおよそ10年間を振り返るよ
うな選曲と、スケールの大きいダイナミックな演奏に痺れっ
ぱなしだった。
まず前半のクライマックスはKeep On GrowingとKey To
The Highwayが続けられたところだろうか。僕が20代の
頃一番夢中になったデレク&ザ・ドミノズの2枚組アルバ
ムからのセレクトだ。中盤から後半にかけてはジョン・プ
ラインの名曲「モンゴメリーから来た天使」のボニー・レ
イット版を範にしたスーザン・テデスキのヴォーカルが冴
え、バンドは驚くべきことにグレイトフル・デッドのSuga
r Leeへと束ねてみせる。そんな変幻自在な長尺ジャムを
頼もしく感じずにはいられなかった。白眉はやはりTTBの優
れたオリジナルMidnight In Harlemかな。元々いいメロデ
ィを持ったナンバーだが、静と動とを鮮やかに対比させなが
ら、シグネチャーであるSGを鳴らし、まるでスカイドッグ
のように飛翔させていくデレク・トラックスの姿に筆者は
不覚にも涙してしまった。
自分たちが育ったアメリカ南部の音楽を慈しみながら、
それを懐古趣味ではなく、まるで未来の子供たちに何かを
託すようにTTBの12人はひとつひとつの音色に気を配りな
がら奏でる。遺伝子を受け継いだオールマンズは勿論のこ
と、デラニー&ボニー&フレンズや、ジョー・コッカーと
レオン・ラッセルが率いたマッドドッグス&ジ・イングリ
ッシュメンへの畏怖や尊敬が、輪郭を伴いながら伝わって
くる。
アンコールに用意された2曲の最後はWith A Little From
My freiendsだ。1967年にレノン=マッカートニーが作詞
と作曲をし、ジョー・コッカーとグリース・バンドが69年
の夏のウッドストック・フェスティバルで熱演した歌だ。
それが21世紀という混沌とした時代へ投げかけられていっ
た。暗い雲に覆われたような世界に対するアンサーソング
のように歌われていった。まるで白鳥のように歌は続いて
いく。「友達からのちょっとの助けがあれば、きっと生き
長らえるんだよ」と。
by obinborn | 2019-06-16 23:51 | one day i walk | Comments(0)