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ニール・ヤング『After the Gold Rush』

まず時系列を整理しておくと「強力なギターがもう一本欲しい!」
とスティルスがバッファロー時代の旧友ヤングを加え『デジャ・
ヴ』を完成させたのは70年3月のことだった。これを受けて
CSN&Yはすぐに70年の6月からサマー・ツアーに出掛けている
(その時の様子を収録したのがライヴアルバム『4ウェイ・ストリ
ート』)が、その興奮も冷めやらぬ70年の8月に発売されたのが
『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』だった。既に2枚のソロ・
アルバムを作っていたニール・ヤングにとって、CSN&Yへの参加
は儀礼的なものに過ぎず、あくまで自身の活動に重点を置いていた
ようで、その気配は『アフター〜』の圧倒的な充実ぶりからも伺え
る。69年春の『Everybody Knows This Is Nowhere』で初めて
合流したクレイジー・ホースの面々に、当時グリンというロック・
バンドを組んでいたニルス・ロフグレン、CSN&Yのスタジオ・ア
ルバムに参加したグレッグ・リーヴスが合流して出来上がったのが
『アフター〜』だった。前作で早くも示された元祖グランジとも
呼べる嵐のようなエレクトリック・サウンドが、人種差別への抗議
歌「サザン・マン」として結実し、その続編が次作『ハーヴェスト』
に収録された「アラバマ」や「歌う言葉」に引き継がれていったの
は言うまでもないだろう。その一方この『アフター〜』ではアクー
スティックな弾き語りの頂点Only Love Can Break Your Heart
とTell Me Whyがあり、両極端に振れるニール・ヤングの魅力を
鮮やかに伝える。まるで赤ん坊の泣き声のように歌われる唯一のカ
バーはドン・ギブソンのカントリー曲Oh Lonesome Meだが、
これもまるで自分の歌のように消化している。本来であればギタ
ーが専門職のニルスをあえてピアニストとして登用させたニール
の直感を特筆したい。ニルスのピアノは淡々とコードを押さえ、
幾つかの装飾音を混ぜるだけだ。しかしながら、そのぎこちなさ
がかえってニールの歌と不思議な均衡を保っている。アルバム表
題曲のAfter The Gold Rushや、アート・ネヴィルも歌ったBirds
を聞けば、きっと誰もがその感想に納得してくださるだろう。そう、
ファースト・コールのスタジオ・メンを呼び集め、平均的な音楽
に落とし込むのとは真逆の感性が本作にはあり、幾つかの友情や
信頼が瞬間的な煌めきを何気に
補完する。私がかつてロック音楽

に求めたのは、こうした生々しくオーガニックなサウンドだった。
ラルフ・モリーナの”下手くそ”なドラムスが、ニール・ヤングの
心臓の音のように聞こえてならない。


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by obinborn | 2019-07-13 17:04 | Comments(0)  

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