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アーニー・グレアムを巡る個人的な回想

Sくんと出会ったのは78年の夏だった。同じキャンパスに通い
ながらも僕が経済学部で彼が人文学部だったから授業で一緒に
なった記憶はないが、音楽が僕たちを結び付けてくれた。彼は
どこか仙人めいたところがあって、流行りの音楽には目もくれ
ず英米のスワンプ/SSWを当時から深く掘り下げていた。そん
なSくんが当時住んでいた石神井公園のアパートへと遊びに行
ったことは今もはっきり覚えている。隣の邸宅には売れっ子の
女優が住んでいること、トイレが離れにあったこと、ロジャー
・ティリソンのLPを眺めながら「僕たちもいつかこんな親父に
なってしまうのかね」と話したことなどなど...。その8月に彼
が帰省する際に貸してくれたロニー・レインの『Anymore For
Anymore』が僕の将来を決定付けてしまったのだから、本当に
運命とは不思議なものだと思う。僕らのキャンパスは江古田に
あり、午後の講義が終わると近くにあったロック喫茶クランへ
とよく行ったものだ。そのSくんがアルバイトの用事があって
今日は都合が悪いから2枚買っておいてよ、と言われたのが日
本で再発されたばかりの『アーニー・グレアム』だった。その
日急いで吉祥寺の中道商店街の奥にある芽瑠璃堂に駆け込んだ
のは言うまでもない。それから暫くの時間が流れた。Sくんと
久しぶりに再会したのは、ディスクユニオンで行われた僕の出
版記念イベントの会場だった。儀礼的な挨拶と会話が交わされ
た。それは互いの距離を測り兼ねるようなぎこちなさだった。
どちらかに齟齬や誤解があったとは思わない。何か決定的な溝
が生じた訳でもなかった。ただ30年以上の歳月が経っていた。

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by obinborn | 2019-10-15 18:20 | one day i walk | Comments(1)  

Commented at 2019-12-26 11:43 x
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