鈴木カツさんの思い出
2017年の6月5日は鈴木カツさんの命日だった。享年74歳。FBフレンズの方が偶然にもその旨を書かれていたので思わず懐かしくなってしまった。癌を患いながら亡くなられたカツさんが3年まえに天上の人となった日に、今年同じような癌に罹ってしまった僕がたまたま退院したというのも、何やら奇妙な符号のような気がしてならない。僕がカツさんと親交を持ったのは案外遅く、98年の秋頃からのことで、彼が経営する築地の音楽バーAny Old Timeを訪れ、音楽評論の大先輩に当たるカツさんにご挨拶差し上げることから始まった。それからは互いにフォークやカントリーやルーツ・ミュージックなど好きな音楽が似ていた点もあって暫くはAnyに通うことになったのだが、些細な行き違いからいつしか僕たちの間には隙間風が吹くようになってしまった。彼にしてみれば「この若造が生意気なこと言いやがって!」と自尊心を傷付けられた部分もあっただろうし、僕にしても若気の至りでモノを言ってしまっていた。あれから20年以上も経った今振り返ってみれば、いい大人同士がまだ不慣れだったSNSの時代を迎え、本来であればキーボードを押す前に慎重にならなければいけない事項をすっ飛ばしながらつまらない論争を起こしてしまったな、と反省している。但し、結局15年以上もあった世代のギャップはなかなか埋めらなかったというのが正直なところだったと思う。また彼が音楽についての知識や情報を最優先して開示するタイプだったのに対し、僕の場合はどちらかと言うと「音楽を聴いて自分が何をどう感じたか」という部分を中心に筆を執る書き手だったことも互いの距離をより伸ばしてしまう要因になってしまった。こればっかりは皆さんそれぞれ音楽ライターに抱く好き嫌いがあるだろう。そのようにしてケンカ別れをしてしまったカツさんだったが、ヴィヴィッド・サウンズ〜芽瑠璃堂の長野和夫さんと一緒に、晩年のカツさんをお見舞い出来たことは不幸中の幸いだった。あれは2016年12月のこと。僅かな時間であったけれども、茅ヶ崎の駅ビルに入っている鮨屋で「おう!よく来てくれたね!オビさんと仲直り出来なきゃ、オレ死ねないよ!」と健気に笑ってくださったカツさんのお姿が、決して癒えない古傷のように今も残っている。
by obinborn | 2020-06-06 04:56 | one day i walk | Comments(0)







