ロニー・スペクターの訃報に接した時、頭の中で流れ出したのは佐野元春の「月夜を往け」だった。というのも、この曲のウォール・オブ・サウンドは明らかにロネッツへのオマージュになっていたからだ。それも単にイノセントなティーンエイジ・ポップを再現するのではなく、かつて10代だったカップルが歳月を経て、大人になってから再会するという設定になっているのが佐野さんらしい。そこにはポップ音楽の主人公にあえて「歳を取らせる」というチャレンジングがあった。
私が10代だった時、ロネッツやクリスタルズのアメリカン・ポップはもはや過去のヒット曲だった。そのエッセンスに新しい息吹を加えて蘇生させたのはブライアン・ウィルソンやジョージ・ハリソンやブルース・スプリングスティーンといった後進の人たちだった。ポップ音楽とは本来そうして継承されていくものだろうから。
それでもロネッツのBe My Babyには時代を超えた輝きがある。高鳴る心を代弁するようなドラムスは「ジョニー・B・グッド」のギター同様の発明品だった。連打されるカスタネットは都会の喧騒を伝えていた。そして無邪気に懇願するヴェロニカの歌はまるで”10代の肖像”のようだった。もう遥か遠く、思い出せないくらい昔のヒット曲。それでもこの歌は暗い夜道をこれからも照らしてくれるだろう。